シエラ、初めて同年代と対面する
冒険者ギルドを後にしたリチャードとシエラの二人は、市場に今晩の夕食を買いにやって来ていた。
アイリスはエルフだが、肉も普通に食べるので今日は肉を買いに肉屋にリチャードは足を向ける。
「シエラ、急にアイリスを呼んだが、良かったのかい?」
「ん。アイリスは好きだから」
実のところ冒険者ギルドに行ってアイリスに会うことをシエラに伝えた際、アイリスを夕食に誘いたいと言い出したのはシエラだった。
思いのほか三人での夕食が楽しかったのだそうだ。
「やあいらっしゃいリチャードさん! シエラちゃんもいらっしゃい!」
肉屋に辿り着くと、店主がいつもの人当たりの良い笑顔で挨拶をしてきたのでリチャードは「やあ店主さん」と挨拶を交わし、シエラもリチャードに続いて「お肉屋さんのおじさん、こんにちは」と挨拶を交わす。
そして目的の牛肉を切り分けてもらってる間世間話に花を咲かせた。
「へえ、シエラちゃんも次回の養成所入所試験受けるのかい?」
「シエラちゃんも、って事は店主の息子さんも受けるんですか?」
「ええ、そうなんですよ。次男坊のリグスがね~どうしても冒険者になりたいって聞かないんですよ」
なんてことを話していると、肉屋の店に一人の少年が「ただいま!」と駆け込んできた。
背丈はシエラよりやや高い程度、切れ長の目に一部赤いツンツンヘアーの男の子だ。
ただいまと言っていた事、シエラと大して変わらない背丈からこの少年がリグスだとリチャードは思うがどうやらそれは当たりのようだった。
肉屋の店主が「こらリグス!お客様がいるだろうが静かに帰ってこい!」と言って少年に拳骨を喰らわせようとしたのを、リチャードが「まあまあ」と制止した。
「元気なのは冒険者にとって良い事ですよ店主、拳骨は勘弁してやってください。
はじめまして、では無いはずだが、随分大きくなっていて一瞬誰か分からなかったよ。私の事を覚えているかい?」
「覚えてるよリチャードのおっちゃん! 久しぶり!」
「冒険者になるそうだね。うちの子も次回の試験を受けるんだ。仲良くしてやってくれ」
「うちの子?」
リチャードの言葉にリグスは首を傾げてシエラの方を見る。
つられて首を傾げたシエラを見た瞬間、リグスの顔がみるみる真っ赤に染まっていくのをリチャードと肉屋の店主は見て「おや、これは」と思っていると。
リグスは後退り、シエラと距離を離したかと思うと店の奥へと駆けていった。
「次男坊、恋を知るか」
「仲良くはしてくれそうですね」
「いやあどうかなあ。ほら、聞く話でしょ?
好きな子程イジメたい、みたいな」
「ああ、確かに聞きますねえ」
「イジメられたら、俺はやり返す」
「ハハハ! シエラちゃんは頼もしいねえ!
はいよ! 牛肉三人分ね値段は二人分で良いよ! また贔屓にしてくださいね!」
「ありがとう店主、次に肉を買うときは店主の店に来店することを確約しますよ。ではまた。
さあシエラ、帰って準備に掛かろう」
こうしてリチャードとシエラは肉屋を後に自宅へと向かう。
道中すれ違った同じ歳くらいの子供達を見てシエラはリチャードに「仲良くできるかな」と不安を吐露するが、リチャードはシエラの頭を撫でながら「それはシエラ次第だよ」と愛娘に微笑んでみせた。
そしてこの晩、仕事帰りのアイリスを予定通りに迎えて三人は夕食を共にする。
アイリスがリチャードの料理を食べ、自分の料理の味が負けていると感じたようで、夕食を食べ始めた際に若干悔しそうな複雑な表情を浮かべていた。
「くそう、美味しい」
「褒められてる、よな?」
「ん。親父の料理は最高に美味」