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まずは冒険者の長に挨拶に行こう

 アイリスがいつものようにギルドにて業務を行っていたある日の事。

 アイリスの執務室の扉をノックする音にアイリスは書類へのサインを止めることなく「どうぞ、開いてるわよ」と応えた。


 また追加の仕事かしら? と思うアイリスの考えとは裏腹に視線を上げた先に数日前に看病に訪れた、長年秘かに想いを寄せている人族の男性リチャード・シュタイナーと養子のシエラ・シュタイナーが立っていた。


「あら、今日はどうしたの? 風邪の時のお礼なら別に構わないわよ?」


 想い人の来訪にニヤケそうになるのを我慢しながら言うアイリス。

 そんなアイリスの胸中も知らずにリチャードは「この間の養成所の教官の件だが」とお構いなしに話を切り出した。


「あら、あの話受けてくれるの?」


「ああ、受けるよ」


「ありがたい話だわ。でもどうして? あまり乗り気でなかったように感じたのに」


「この子が冒険者になりたいと言い出してね。

 親馬鹿みたいなものさ、シエラが冒険者になりたいと言い、私には教官への勧誘があった。

 なら同じ学び舎の下で娘の成長を見届けたいと思ったのさ」


「そう、じゃああなたが教官になる事を決心したのはシエラちゃんのおかげなわけね」


「うむ、まあそうなるか」


 書類のサインの手を止め、執務机から立ち上がり、アイリスは「こっちで話しましょう」と、執務室から扉でつながっている隣の応接室へと向かい扉を開けた。

 先に応接室に入ったアイリスが手を耳に当て遠距離通話魔術で何やら話しているのを見ながらリチャードとシエラはアイリスの後に続いて応接室に入ると、アイリスがソファに座ったので、二人はガラス張りのローテーブルを挟んだ対面のソファに腰を下ろす。


「シエラちゃんが冒険者に、か。

 リチャードから見てどう? シエラちゃんは冒険者としてやっていけると思う?」


「身内びいき無しでその辺りは話すが、正直問題はないと思っている。

 魔導銃を初見での行使、ひと月と経たずに文字を覚えた学習力と記憶力、何よりも生きようとする力は平均的な10代の少年少女とは比べる事すら出来ないよ」


「べた褒めね、でも生きる力はのくだりは言い過ぎじゃないかしら?」


「…………君には言っておこう。この子、シエラは捨て子だ。正確にいつとは分からないがシエラは親に捨てられ私と出会うまでスラムやこの近くの路地裏を行き来していたそうだ」


「そんな――」


 リチャードの話にアイリスは顔を歪め、悲しそうな顔でリチャードの隣に座るシエラを見る。

 しかしそんなアイリスとは裏腹にシエラはアイリスに微笑んで見せた。


「でもそのおかげで俺はリチャードやアイリスに会えた。

 それに今は幸せだと思うから。だから、アイリスお姉ちゃん、そんな顔しないで」


 シエラの言葉に嘘やお世辞はない、心の底からそう思っていると言わんばかりの笑みだった。

 そんなシエラをリチャードは撫でる。

 嬉しそうに撫でられているシエラの姿にアイリスは「そう、ならよかったのかしらね」と微笑ましく思う反面、撫でられているシエラをうらやましく思う自分がいることに恥ずかしくなり首を振る199歳独身エルフ。


 そんな時、応接室の廊下側の扉がノックされ「失礼します」とギルドの職員が姿を現した。

 手には人数分の紅茶と何やら書類が乗せられたトレーが乗せられている。

 先ほどアイリスが遠距離通話魔術で何やら話していたが、恐らく紅茶と書類の準備をさせていたのだろう。


「二人は甘い方が良いわよね? ミルクティーで良かったかしら?」


「ああ、気遣いすまない」


「ん。甘い方が好き」


 アイリスの言葉に、置かれたミルクティーにさらに砂糖を放り込みながら二人は答える。

 甘党なところは血はつながってないのに親子で似てるのか、面白いな。とアイリスは自分のストレートティーをギルド職員から受け取りながら思って微笑んだ。

 その後さらに職員から書類を受け取ると、職員はトレーを置いて立ち去るのを「ありがとうね」とアイリスは見送るのだった。

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