いつもの朝
翌朝、風邪の症状もすっかり良くなったか、リチャードの目覚めはいつになく清々しいものになった。
隣では何時ものようにシエラも眠っている。
安らかな寝顔で眠るシエラを起こさないようにリチャードはベッドから降りると、薬を飲む水を入れるためにキッチンへと向かう。
その途中、昨晩遅くまで起きていたであろうシエラが読んでいた自作の研究資料とクエストの攻略記録がリビングのローテーブルの上に積まれているのが開いていた扉の隙間から見えた。
「シエラが冒険者に、か」
足を止め、昨夜のアイリスの言葉を思い出し呟くリチャード。
そんな時、リチャードの腰辺りに何かが当たった。
振り返って見てみれば、恐らく起きたリチャードを追い掛けてきたのであろう、半分寝ているのではないかと思えるような程に寝ぼけたシエラがリチャードの服の裾を掴んで抱き着いていた。
「おはようシエラ。まだ眠いんだろ? 急ぎの用があるわけでなし、ゆっくり眠っていても良いんだぞ?」
「やだ、リチャードといる」
「……そうか、ならおいで。洗面所で顔を洗おう」
リチャードはシエラを抱き上げて再び洗面所へと向かう。
そして顔を洗ってリチャードは薬を飲み、その間に今度はシエラが顔を洗うが、やはりまだ眠そうだ。
シエラの足はフラついていた。
風邪が感染ったか? と心配したリチャードはシエラの額に手を当てるが熱は無い。
単純に寝惚けているだけのようだ。
一人で寝るのが嫌なら仕方無い。
そう考えたリチャードはシエラを寝かせる為にリビングに向かうと、小説を手に取りそのまま再び寝室へと向かった。
「さあシエラ、私はここにいるから今は眠りなさい」
「ん。……分かった」
ベッドに入り、座って小説を開くリチャードの横で、幸せそうな表情を浮かべてシエラは再び眠りにつく。
そんなシエラにリチャードは布団は暑いかと思って毛布だけを掛けて、自分は小説を読み始めた。
しばらく小説を読み進めていると、不意に目覚めたシエラが「トイレ」と言い、目を擦りながら寝室を出ていったので、この隙にとリチャードは寝間着のシャツからいつもの黒いシャツに着替えて再びリビングへと向かう。
そして昨夜シエラが読んでいた研究資料を纏めると、保管場所である書斎ではなくリビングの空いている本棚へと資料を片付けていくが。
「リチャード。それまだ読んでないから出してて」
と、トイレからリビングに来たシエラに今まさに本棚に入れようとした資料を指差して言われたので「分かった、置いておくよ」と、ローテーブルにその一冊を置いた。
「朝食はどうする? 食べるだろう?」
「食べる。……あの甘いパン食べたい」
「フニャフニャのフレンチトーストかい? それともカリカリのシュガートーストかな?」
「カリカリの方が良い」
「分かった、直ぐに用意するとしよう」
シエラの要望通りシュガートーストを用意するリチャード。
いつもなら食事はダイニングで食べるが、リビングでシエラが資料を読んでいることもあって今日は二人共リビングで朝食を済ませることになった。
朝食を食べ終えた後。
食器を片付けようとリチャードが立ち上がると「俺も手伝う」と、ソファから立ち上がったシエラが皿を重ねてキッチンへと運んでいく。
先程までの寝惚けていた姿が嘘のようにキビキビ歩くシエラの姿を見て、リチャードの杞憂は解消されたのだった。