シエラは剣に何を見るか
冒険者ギルドのギルドマスターに実力者が多く就任しているのは何故か?
諸説あるが、それはもちろんギルド内で何か問題があったとき、例えば実力者同士の衝突、喧嘩などが起こった際に制圧する力が必要になるからだ。
もちろん業務能力は必須だが、その辺り含めて実力者というのは人脈、コネクションも豊富だったりするので、この世界の冒険者ギルドのマスターは現役冒険者のハイランカーが兼業したり、引退した高ランク冒険者が務めることが多い。
それで言えばリチャードが住む街の冒険者ギルドのギルドマスター、アイリスは十分な実力者だ。
現在はギルドマスターの業務を優先しているが、いまだ現役で、ともすれば高ランククエストにすら同行することもある。
容姿端麗、金髪碧眼でエルフらしい長身の女性でありながらアイリスを知る人物からは英俊豪傑と称えられるほどだ。
そんなアイリスがギルドの制服からクエストに行く際の装備に着替え、地下の鍛錬所に姿を現した。
訓練用に刃引きした二本のショートソードを壁際に置いている武器棚から選んで取り、何もない鍛錬所の真ん中で踊るように振る。
しばらく準備運動をして体の調子を整えていると、そこにシエラを連れたリチャードも姿を現すが、その後ろにゾロゾロ野次馬の冒険者達もついてきているのが見えた。
されどアイリスはお構いなし、ギルドの長だ、こうなることは想定していたのだろう。
「あんた達、飲料と軽食の持ち込みは結構だが片付けを忘れないでよ? 終わった後散らかっていたらここにいる全員後でボコボコにするからね?」
「イエス、マム」
「大丈夫っすよー。ちゃんと片します」
アイリスの言葉に観戦目的でやってきた冒険者たちが応えた。
その傍らでリチャードが武器棚からアイリスと違い、ロングソードを一本取りだして腰に携える。
そして、後ろで待つシエラに振り返ると手を膝につき目線をシエラに合わせた。
「シエラ、もし怖いと感じたら皆の後ろに行くんだ、良いな?」
「ん。分かった」
魔導銃を抱えるシエラを撫で、リチャードは自分を待つアイリスの前へと向かうと、しばらく振っていなかった剣の感覚を取り戻すため時間を貰い、リチャードも剣の素振りをする。
その様子を見ていたシエラは瞳を輝かせていた、何かきれいな宝石や景色なんかを見たようなその表情。
どこかで見たことがあるシエラのその顔にリチャードは疑問を浮かべるが、その思考は「よし、そろそろやろうか」と言ったアイリスの言葉に遮られた。
「すまない待たせた。では、やろうか」
「うむ、いざ尋常に、と言う奴ね」
「「行くぞ」」
呟くように言った二人が剣を構えて加速した。
両者同時に斬りかかるが、アイリスは二刀流。
鍔迫り合いになれば片手の剣に斬られる、ならばリチャードはどうするか。
鍔迫り合いにならないように力で押し切るか、止まることなく連撃を繰り返すしかない。
繰り返される剣戟の音は音楽、入れ替わり立ち替わりで体勢を有利に整えようとする様は舞踏のようだ。
次第に二人の速度が上がっていく。そんな二人を見ていた冒険者たちから歓声が上がる。
立ち位置を入れ替え、剣戟を繰り返す二人は楽しそうに、そして懐かしむように踊っているように見えた。
アイリスの剣撃後に受けた後ろ回し蹴りから、リチャードが体勢を立て直すために後に跳んで距離を離した時の事。
視界の端、アイリスの後ろにシエラの姿を見てリチャードは先ほどの疑問に答えを見つけた。
「ああ、もしかしたらシエラも――」
同じだった。
シエラがこちらをみる見惚れるような、楽しそうな笑顔。
同じなのだ。
今、目の前で猛烈な速度で二本のショートソードを振り迫るアイリスの笑顔と。
「戦いに楽しさを見出すクチなのかもしれんな」
言いながら、リチャードの顔にも笑みが浮かぶ。
類は友を呼ぶと言う奴だ、リチャードとて戦闘は嫌いじゃなかったというわけだ。