魔導銃の試射
このギルドの裏手にある鍛錬所。
地下とは違い空が見えるこの場所の一角に人型の試し斬り人形が置いてある。
普段あまり使用されないこの場所で、リチャードは試し斬り人形から離れて約20年ぶりに魔導銃を構えていた。
普通の猟銃などであれば20年も放置していたなら錆び付いたり、劣化してまともに動作しないかも知れない。
しかし、魔導銃は形こそ猟銃やマスケット銃に近しいが、その本質は魔法使いの杖だ。
弾丸ではなく、魔力を硬めた魔力弾やそこに属性を付与した各種属性弾をライフリングの代わりに刻まれた螺旋状の魔法陣を介して高速で放つ為の、魔法使いの杖より更に攻撃に特化させたのが魔導銃という武器。
そのライフルに引き金は無く、グリップ部に埋め込まれた魔石に魔力を送り込んで使用する。
「ふう、なんとか当たったか」
リチャードは試し斬り人形に向かって無属性弾を放った。
20年ぶりに使った魔導銃の弾丸は試し斬り人形を掠めて当たるが、直撃と言うには難い。
しかし、リチャードが銃を使うのを見ていたシエラの瞳は輝いていた。
「凄いね親父、どうやったの?」
「やってみるかい? シエラにはまだ重いとは思うが」
「ん。やってみたい」
「うむ、まあ火薬を使ってるわけで無し。
暴発したなんて話は聞いた事無いから大丈夫だろう。
良く狙う必要は無い、師匠はそう言っていた。
肝心なのは放たれた弾丸が、的に当るイメージだそうだ」
リチャードに手取り足取り補助されながら、シエラはリチャードと魔導銃を構える。
その様子をギルドマスターであるエルフの女性は二階の執務室の窓から眺めていた。
「教えるなら得意な剣でも教えれば良いものを。
子供が魔導銃をまともに扱えるものか」
しかし、ギルドマスターの予想は大きく外れることになる。
「風呂や水道の魔石に魔力を注入する要領で魔石に魔力を送り込んでみなさい。
イメージだ、銃口から魔力が放たれ、あの人形に当るイメージを強く持つんだ」
「ん。やってみる」
リチャードに支えられながら、シエラは銃に魔力を送り込んでいく。
この時、風呂や水道と言われたからか、シエラは頭の片隅に水を思い浮かべていた。
するとどうだろうか。
魔導銃の銃口から魔力弾が放たれる直前、リチャードが銃を使用した際には現れなかった魔法陣が銃口の先に現れ、魔力弾ではない大砲の砲弾ほどもある水球が放たれた。
それが高速で試し斬り人形に向かい、胴体に直撃。
試し斬り人形を胴体から真っ二つに砕く。
「あれ? 親父のと違う」
「凄いじゃないかシエラ! 初めてで直撃だぞ! しかも属性弾だ!」
柄にもなく大声を出して驚き、シエラを抱き上げるリチャード。
シエラにしてみれば何故こうも褒められているのか分からなかったが、リチャードが褒めてくれたのが嬉しくてシエラも笑顔を浮かべた。
「おいおい、冗談だろ」
その様子を見ていたギルドマスターも、もちろん驚き目を丸くしていたのは言うまでもあるまい。
「まさかシエラにこんな才能があるとはなあ。
もう少し撃ってみるかい?」
「ん。もうちょっと撃つ」
「よし、今度はもう少し威力を落してみよう。
水のイメージ無しで魔力を送れるかい?」
「やってみる」
こうして、楽しくなってきた親子はしばらくの間魔導銃の試射を楽しむ事にした。
それこそ午前中の時間全てを費やす程に。