久々のギルド
シエラが目覚め、食事を終えた後。
二人は魔導銃の試射の為に冒険者ギルドへと足を運んだ。
朝出掛けるまでは街の近くの森まで行くかと考えていたリチャードだったが、街の外に出ると魔物と遭遇するリスクが生まれる。
自分一人ならどうとでもなるが子連れとなると、と考えた末にリチャードは冒険者ギルドの鍛錬所を使わせてもらおうと考えたのだ。
「さて、ギルドマスターは果たして了承してくれるだろうか」
「ギルドマスター?」
「冒険者ギルドで一番偉い人のことさ」
「ふーん」
手をつないで街を歩くリチャードとシエラはそんな会話をしながらギルドへ向かっていた。
そんな時だった。
リチャードとシエラは子連れの女性とすれ違った。
シエラが手を繋いで歩く母と子を目で追い、すれ違い様に振り返って視線を向けたのをリチャードは横目に見ていた。
(強がっていてもやはり母親という存在は必要なのだろうか)
そんな事を思ったリチャードの脳裏にある女性の姿がチラつく。
それは自分が今日まで惚れ続けている女性だ。
ある理由から意中のその女性からの好意に鈍感なフリをしてアプローチに気が付いてないように装ってもいる。
(自分の都合で彼女を頼る事は出来ないな。それも子供をダシに使うなどもっての他だ)
脳裏にチラつく想い人を振り払うようにリチャードは首を振った。
その後、2人は目的地に到着すると、扉を開いて冒険者ギルドへと足を踏み入れる。
冒険者ギルド。この国の大小問わず街には必ず一箇所は存在する様々な仕事を請負ういわばなんでも屋。
賑わうギルドにほぼ毎日来ていたリチャードにとっては引退後久々に訪れるギルドの賑わいは懐かしくすら感じられた。
しかし、その賑わいはリチャードを見た冒険者たちによりざわめきに変わる。
「おい、あれ。リチャード・シュタイナーじゃないのか?」
「え? 引退したんじゃないのかあの育成上手」
「隣の子供は誰だ? 次の英雄候補か?」
そんなざわめきをよそに、リチャードはシエラを連れてギルドの職員が常駐しているカウンターへと向かった。
少し前まではクエストを受け、終わったクエストを報告するためだけに行き来していたカウンター。
職員との会話も最低限だったリチャード故に今日改めてカウンターの職員に私用で話しかけることが何故だろうかリチャードには気恥ずかしさを覚えさせていた。
「やあ、久しいな。ギルドマスターに用があるんだが」
「リ、リチャードさん!? お久しぶりです! えっとギルドマスターですね、少々お待ちください!」
カウンターに座って書類整理をしていた女性職員はリチャードの言葉に席を立つと、走ってギルドの二階へと向かっていった。
そしてしばらくも待たないうちに二階から耳が人間より長いエルフの女性が姿を現し、早足でリチャードの元まで来るとリチャードの首元のシャツを掴んだ。
「貴様、リチャード・シュタイナー! 私になんの挨拶もなしに冒険者をやめるとか抜かして出て行きおってからにどの面下げてギルドに顔を出した?」
「冒険者が冒険者を辞めるのは自由なはずだが? 間違ってるかね?」
「ああ、確かにギルドの規約にはそう書いてある。書いてあるが貴様の場合は別だ阿呆め!
自分の価値を分かってない阿呆め! 貴様は昔からそうだ、いつもいつも自分は大したこと無いとか抜かしおって――」
「親父を悪く言うな!」
リチャードに文句を言うギルドマスターのエルフの言葉を遮ったのはシエラだった。
ギルドマスターの女性エルフを押してリチャードから引き離そうとするが、シエラの力ではそれは叶わない。
しかし、涙目の子供にそんな事をされてはリチャードを離さないわけにもいかない、周りの目もあってギルドマスターはリチャードを離して一歩離れ、深呼吸して憤りを抑え込んだ。
「なにこの子、リチャードの何?」
「娘だよ。娘のシエラだ。今日はこの子にこれを使っているところを見せたくてね。場所を借りに来たんだが」
「ふーん娘ねえ……いやいや、あんた独り身だったでしょう」
「そろそろ説明が煩わしくなってきたが、この子は養子だ血の繋がりは無いよ」
言いながらシエラの頭にポンと手を置くリチャード。
手を置かれたシエラはというとまだギルドマスターを睨んでいた。
行けと指示すればもしかしたら襲い掛かるかもしれない気迫すらある。
「魔導銃……アンタその子を冒険者にするつもり?」
「いや、私にそんなつもりはない。
まあ、シエラが冒険者になりたいというなら全力でサポートするつもりではあるがね」
「英雄5人を育てた貴方が全力で……そう、分かったわ。
場所を借りたいんだったわね。地下の鍛錬所でも裏の鍛錬所でも好きに使いなさい」
「すまない、助かる。……裏の鍛錬所を使わせてもらうよ。
さあ、行こうシエラほら、いつまでも睨んでないで」
「……分かった」