リチャードの思い出
かつての仲間がSランククエストの為に旅立ったその夜。
リチャードはシエラにせがまれて昔話を聞かせていた。
本の話ではない。
シエラが聞かせてほしいと願ったのはリチャードがこれまで歩んできた人生の物語。
リチャードはシエラの願いを聞き入れて自分の過去、冒険者になってから引退するまでの話を少しずつ聞かせる事を約束してその日はリビングで、そして寝る前のベッドの上でシエラに話を聞かせた、聞いてもらった。
「リチャードの師匠も凄い人だったんだな」
「いやはや、当時子供だった私は師匠が凄い人だとは思ってなくてね。
日中から酒は飲むし、女遊びやギャンブルはするしでな……ただ、様々な武器の扱いに精通していてな、結局最後まで剣では勝てなかった」
「その人は今は?」
「死んだよ、クエスト中にな」
「……なんで死んだの?」
「師匠に同行していた仲間の話だと、その仲間たちを逃がすために囮になったんだそうだ。
いい加減な人だったが、仲間思いの人ではあったからな」
仲間の人達のせいじゃないのに、当時唯一の関係者だった私に泣きながら謝ってきたなあと、当時の事を思い出しながらリチャードはシエラを寝かせる為にいつものようにシエラの腹を軽くポンポンと一定のリズムで置いたり離したりするが、今日のシエラはいつものように微睡むことすらなく、リチャードの話を興味津々に聞いていた。
冒険者の生の体験談だ、シエラにとっては小説や絵本の物語より想像しやすくて聞いていてワクワクする話だったわけだ。
「リチャードが魔物を倒すのに剣を使うのはなんで?」
「ん? ああ、いやなに。単純に才能がなかったのさ。
魔法を使いこなすには魔力の総量は足りないし、魔剣士として戦えるほど器用でもなくてね。
師匠の遺品から槍やら魔導銃なんかも使ってみたが性に合わなくて、結局剣に落ち着いたという話さ」
「そうなのか……剣も槍も分かるけど、魔導銃ってなに?」
「ふむ、なんと説明すればよいか。猟銃は分かるかい?」
「ううん、分からない」
「となると説明が難しいなあ。……よし、明日見せてあげよう、だから今日はもう寝なさい。良いね?」
「ん。分かった。寝る」
リチャードの言葉に目を閉じるシエラ。
そんなシエラの横でリチャードも目を閉じる。
昔の話をしたからだろうか、その晩リチャードは昔の夢を見た。
シエラに話した魔導銃を使う練習を師匠である冒険者に見てもらっていた時の夢だ。
「っかああ!へったっくそだなあリック! そうじゃねえよ魔導銃は猟銃じゃなくてどっちっかつうと魔法使いの杖みたいなもんだって言ってんだろうが。
ほれ、貸してみ。こいつはこうやって使うんだよ」
「うっせえなあ。こんなん当たるかよ!」
悪態をつきながらリチャード少年は師匠に向かってマスケット銃にも似たそれを力いっぱい投げつけた。
それをまるで食卓に置かれている皿でも取るかのように易々と師匠は受け止めると、ろくに照準も付けず、それどころか的代わり使っている木から狙いを大きく外した状態でトリガー部分に組み込んでいる魔石に魔力を込める。
ライフリングの代わりに刻まれた螺旋状の魔法陣を通過し、弾丸の代わりに放たれる加速した魔力の塊。
それが大きく湾曲して先ほどまでリチャード少年が狙っていた木を貫いた。
「ドヤァ」
「っち、うぜえ」
「おめえはホントに可愛くねえなあ」
「まあ師匠が師匠だしな」
「よし、剣を取れ坊主。ボコボコにしてやる!」
「はあ? 負けるかよ酔っ払い!」
悪夢、とは少し違うが、翌朝目を覚ましたリチャードはベッドから起き上がって深くため息をつくとシエラを起こさないようにベッドから出ると朝食の準備を始め、それが終わると家の中の武具保管庫へと向かい、壁にかけて埃を被っている夢に出てきた魔導銃を手に取った。
持って来た手拭いで埃を拭き取り、魔力伝導率が高い金属部品を磨いていく。
「久々に使ってみるか」
夢に出てきた師匠に対する対抗心か、今日こそ魔力弾を命中させようと心に誓い、リチャードは銃を持ち出して玄関に持っていくと、剣の横に銃を立て掛けた。