夕食後の団欒
夕飯の準備を終えた二人はキッチンからダイニングへと料理を運び、いつものようにテーブルに対面に座り夕食を食べ始めた。
本日のメニューは特製ベーコン入りポテトサラダ、魚の揚げ物、スープ、そして今日はライスではなくパンを頂く。
シエラは初めて食べたポテトサラダをかなり気に入ったようだ、取り分けたサラダを食べ終わる度テーブルの真ん中に置いたサラダの入った器から自分の小皿にサラダをおかわりしていた。
「気にいってくれたようだ。しかし、他の料理も食べないとサラダだけでお腹一杯になってしまうぞ?」
「ん、大丈夫。ちゃんと食べる」
「よく噛んで食べるんだよ?」
「ん、分かった」
リチャードに言われた通りシエラは他の食事も平らげた。
膨らんだお腹を満足そうに抱え、シエラは満腹感にご満悦だ。
空になった器を重ねたリチャードが食器を片付ける為に立ち上がろうとすると、シエラも手伝おうと席を立つ。
そんなシエラにいくつか木製の食器を渡して二人は再びキッチンへと向かい、リチャードが食器を洗うとそれを受け取ったシエラが水気を拭きとっていき、最後には手分けして食器や調理器具を棚に片付けていった。
その後二人は食後のドリンクであるコーヒーの入ったポットと二人分のカップを持ってリビングへと向かい、いつものようにソファに腰を下ろす。
リチャードに心を許しているのか、出会った数日前などはソファの端に座っていたシエラだったが、今ではリチャードにピッタリくっついてソファに腰を下ろしている。
「なあリチャード」
「ん? どうした?」
「この王子様とお姫様が結婚してってところなんだけど……結婚ってなに?」
コーヒー片手に小説を読むリチャードに、同じように小説を読んでいたシエラがあるページを見せながらリチャードに聞く。
「ふむ、どういえば分かりやすいか。
そうだな好きな人同士がずっと一緒にいる、このお話だと姫が王子のお嫁さんになったってことだね」
「リチャードにはそういう人いないのか?」
「ああ、生憎と縁がなくてね。
そういう人とは巡り合えなかったなあ」
「……じゃあ、俺がリチャードのお嫁さんになる」
このシエラの言葉を聞いて、リチャードは昼間の野菜屋とその娘さんの会話を思い出していた。
嬉しいやら恥ずかしいやら何とも言えない感情がリチャードの胸に湧き水のようにあふれ出す。
あの時の野菜屋もこんな気持ちだったのだろうか、そんなことを思いながらリチャードは微笑みを浮かべると小説を置いてシエラの頭を撫でた。
「ハハハ。それは嬉しいなあ、でもそういうのは大人になって好きな人ができてからその人に言ってあげなさい」
「大人になったら?」
「そうだ。今のシエラには難しい話かもしれないが、この人が好き、この人とずっと一緒にいたいって思える人に言ってあげなさい」
「わかった、大人になったら……もう一回言う」
「……ん? ああ、そうしなさい」
リチャードに寄り添うシエラの顔は赤く染まっている。
だが、リチャードの目線の位置からはシエラのその様子は見えない。
初恋の相手が兄や父親だという話は聞いたことがある。
しかしさて、シエラの場合はどうなるのか。
未来のことはまだ分からない。