再登録
冒険者名鑑のおかげで魔物を連れて現れた怪しい男というリチャードの印象は町の入り口に集まっていた集団から消えていた。
ルストに案内されてリチャードは先ず町のギルドへと向かう事に。町の入り口からさほど離れていない場所にある冒険者ギルドの剣と盾を羽根で囲んだ紋章の付いた看板が掛けられた建物を前に、リチャードはどこか安心したように一息吐いた。
「では私はこれで失礼する。大丈夫だとは思うが何か困り事があれば詰所まで来てくれ」
「ありがとうルスト殿。何かあれば頼らせてもらうよ」
「良い旅を。リチャード殿。ああそうだ、受付にコレを返しておいてくれ」
ルストから冒険者名鑑を受け取り、ギルドの前で別れ、リチャードは扉に手を掛けた。
「ああ、すまないロジナ。しばらく待っていてくれ」
ロジナの巨体ではギルド内に入る事が困難な為、ロジナをギルドの扉の横に待機させ、あらためてリチャードとシエラはギルドに足を踏み入れた。
内装などはエドラの街のギルドと大差ないが、そもそも人口が少ない為エドラとは違い規模は小さい。受付の配置は同じだ。
入って真正面が総合窓口、左手に食事処、右手にクエスト掲示板や解体所、訓練所に続く廊下がある。
リチャードは総合窓口に向かうと「失礼」と受付に座る女性職員に声を掛けた。
「いらっしゃいませ。冒険者ギルド・フラリク支部にようこそ。本日はどう言ったご用件でしょうか」
「おー。艶々でモフモフだあ」
そのギルドの女性職員は先に入り口で出会った獣人族達同様に獣の姿に近い獣人だった。
制服を着ていても分かる程の胸の大きさと澄んだ鈴の音の様な声で無ければ男女の区別はつかなかっただろう。
そんな女性職員の金糸のような艶やかな体毛にシエラは目を輝かせた。
「あら、可愛いお客様。ありがとうございます。毛繕いには自信がありまして」
「娘が失礼、まずはルスト殿から預かったこれをお返しします」
「ああ先程ルストさんの部下の方が持って行かれた冒険者名鑑ですね。という事は貴方が」
「元ですがね。冒険者のリチャード・シュタイナーです」
「まあ。では緋色の剣のリチャード様ご本人なんですね。お噂はかねがね。エドラから遠路はるばる良くお越しくださいました」
遠路はるばると言われリチャードは「ええまあ」と苦笑する。
リチャードとシエラにしてみればエドラの街から一瞬でこの近辺に転移させられたからだ。
神獣に転移魔法で送られたと言って、信じてもらえるかは分からないので適当にはぐらかしたリチャードは「早速なんだが」と本題に入る事に。
「ここに来るまでにヒュージボアを倒してね、素材の買い取りをお願いしたいのだが」
「リチャード様、ギルドカードはお持ちですか?」
「いや、昨年冒険者は辞めたんだが、色々あってね。出来れば再発行してもらえると助かるんだが」
「しばらくお待ちください。えっとーー」
何やら書類を確認した後、獣人の女性職員は受付の奥の事務所へと向かって言った。
それからしばらくして、獣人の女性職員が一枚の書類を手に受付に戻って来るとその書類をリチャードに渡した。
「リチャード様はお辞めになったと仰っていましたが、確認した限りですと保留となってましたので、先程お渡しした書類にサインだけ頂ければ仮のギルドカードを発行可能です。本物は所属するギルドにある筈ですのでそちらでお受け取り下さい」
「え? 保留になってるって?」
「エドラまで距離がありますので連絡の誤差などありますが、昨年との話でしたから。本部の方で受理されてはいないか、もしくはエドラ支部のギルドマスターが本部に届け出ていないのかも知れませんね」
エドラのギルドマスターが届出ていない。
思えば引退宣言をした当初アイリスはかなり不服な様子だった。
本部の職員が除名し損じる事は考え難い。となると。
「やったなアイリス」
「ママ何かしたの?」
「いや、逆だな。何もしなかったのさ。まあおかげで再審査や再試験を行わずにサインだけでSランク冒険者に戻る事は出来るがね。少し複雑な心境……いや、この場合は喜ぶべきか」
半ば呆れたようにため息を吐きながらリチャードは心配そうに此方を見上げたシエラに肩をすくめながら苦笑いして書類にサインをする。
そしてサインを受け取った獣人の女性職員はギルドカード登録用の魔石を丸く加工し、それを嵌め込んで作られた登録装
置を受付カウンターの上に置くと、仮のギルドカードをリチャードに渡した。
「丁度良い機会だ。シエラも使う事になるだろうから見てなさい」
「ん。見てる」