襲撃される2人と1匹
「随分寝入ってしまったよ」
毛布やら焚き火の跡を片付け終え、リチャードはロジナに抱き付くように乗っているシエラに声を掛けると、街道に出て再び最寄の町を目指し歩き始めた。
「パパ。後どれくらいで町に着くの?」
「そうだなあ、日が傾く頃には到着するかな」
「うわぁ。まだまだ先は長いねえ」
「ああ、長いな。ロジナに乗って走ってもらえばもう少し早く到着もするがね」
昨夜見た夢の中の母の顔と声を思い出しながら、リチャードは空に向かって冗談ぽく笑って言う。
それに対してロジナは「喜んで乗せますよ?」と言わんばかりに「ウォン」と吠える。
現状、娘が首から頭に掛けて寝そべるように抱き付いて乗っているのだ。物は試しと思ったリチャードは「では、頼めるかい?」と立ち止まってロジナの前脚をポンと叩いた。
それに応えてロジナはシエラを乗せたまま伏せる。
そんなロジナに「すまない、少し毛を引っ張る」と背の毛を掴んで馬にそうする要領で翔び乗ると、ロジナは嬉しそうに尻尾を振って立ち上がり、背に乗る主人と主人の娘を振り落とさないように走りたい気持ちを抑えて歩き出した。
「ロジナは本当に賢い魔物だ、まだ従魔としての契約はしていないというのに」
「ロジナは特別?」
「どうだろう。過去に傷付いた冒険者や森に迷い込んだ人間の子供が魔物に助けられて生還、そのまま人間に仕えたと言う例は決して少なくはないからなあ。まあでもそうだな。ロジナは特別さ、私達の仲間であり友であり、家族だからな」
ロジナの頭の方からズリズリと滑るようにやって来たシエラに言うと、リチャードは微笑んだ。
揺れはするが、酔うほどでは無いロジナに身を預けしばらく進んだ。
太陽が高く昇り、真上には少し及ばない時間。
突然ロジナが歩みを止めて「グルルル」と唸り声を上げたので、リチャードとシエラはロジナの背中から飛び降り、リチャードは剣に手を掛け、シエラは麻袋のアイテムボックスから自分の剣と魔導銃を引っ張り出すように取り出した。
「あれは、冒険者か?」
リチャードが遠く、街道の先の丘の上に見たのは数人の人影だった。
一様に、とは言わないがそれぞれ胸当てや手甲を装備し、剣や盾、槍を手に何やら言い争っている様だ。
目を凝らすリチャードが見たのは、弓を構え、こちらに照準を合わせている冒険者の姿。
その冒険者がやや上に向け、矢を数発、立て続けに放った。
狙いは。
「ロジナ、下がりなさい」
「良いよパパ。俺が落とす」
「ふむ。では任せようか」
「ん」
短い返事の後、シエラが魔導銃の魔石に魔力を込めて、放物線を描いて迫る矢に魔力でもって形成した弾丸を放たれた矢と同数放った。
結果、魔力で編まれたシエラの銃から放たれた弾丸は矢を全て叩き落とす。
だが、それは矢を放った冒険者のフェイクであった。
本命は放物線を描くように放った後に撃った直線的で加速の魔法を付与した矢。
常人ならば決して目視出来ない高速の一射に、シエラの反応が遅れる。
シエラは剣を抜こうとするが、間に合わない。
そんな一撃を、高速の一射を、リチャードは手で掴んで止めて見せた。
「ふう、危ない危ない。いやしかし、良くやったなシエラ。おかげさまでこっちに集中出来たよ」
「ごめんなさい、俺」
「なに、謝る事はない。謝るべきは」
言いながら、リチャードは手のうちにある矢を握り折って丘の上の冒険者を睨んだ。