星空の下で見た夢
ロジナを枕代わりに街道脇で敷物を敷き、仰向けに寝転ぶ親子2人は夜空に広がる星の海を眺めていた。
ただボーっと星空を見上げているだけの時間。
毛布と頭に感じるロジナの体温に、普段なら直ぐに眠気に襲われるが、今日は昼間にたっぷり昼寝をしたからか、今夜のシエラは目が冴えて眠れないでいた。
「眠れないのかい?」
「ん。眠たくない」
「良いさ、何か予定がある訳でもないのだし。眠たくなるまで話でもしよう」
誰もいない草原に風が吹いた。
冷たい夜風だったが、その夜風はロジナの巨体が遮った。
2人には風の音と、風に揺られた草同士が身を寄せ合って擦れる音だけが聞こえてくる。
「星ってなんなんだろう」
そんな風や草の音を聞きながら、星を見上げていたシエラはふと湧いた疑問を口にした。
決してリチャードに向けられた質問では無かったが、過去に聞いた話や、文献で読んだ情報を教えてあげようと「星はね」と口に出したところでリチャードは口を閉じてしまった。
さて、父親としては見聞きしただけの情報を伝えるのが正解か、はたまた子供の想像力を養う為に御伽話めいた話をするのが正解か。
しばし悩むが、そんな時。リチャードは自分の少年時代、寝付けなかった夜に母親に「星って何?」とシエラと同じ質問をした事をふと思い出した。
あの時、母さんはなんと言っていたかな。
リチャードは目を閉じ、その夜の事を少しずつ思い出していく。
話の出だしは「星はね、死んだ人達の魂なのさ」と言うものだった。
「死んだ人の魂?」
「ああそうだよ。地上に家族を残して死んでしまったご先祖様や家族、恋人、友達。そんな人達の魂が暗い夜の闇で私達が迷わないように星になって見守ってくれてるのさ」
「死んだら天国に行くんじゃないの?」
「ああもちろん行くさ。しかしね、天国にずっといると地上に残した家族の様子は見えないだろ? だから神様が夜だけならって事で死んだ人達の魂に死者の時間を与えたのさ」
「あー。だから幽霊さんは夜しか出ないんだね」
「まあ、そういう事だよ」
「俺も死んだらお星様になるの?」
「……待ちなさい、この話はやめよう」
「どうして?」
「シエラがいなくなる事を想像したく無い」
「俺はここにいるよ?」
「わかってる。わかってるよシエラ」
並んで星空を見上げていたシエラをリチャードは抱き寄せた。
シエラにしてみればもっと父親の話を聞いていたかったが、抱きしめてくれた事が嬉しくて、シエラはただリチャードの胸の中で微笑み、目を閉じて父親の胸に顔を埋めて心臓の音を聞く。
シエラはその心臓の音に安心感を覚え、心地良い温かさと相まって眠りに落ちた。
「ダメだなあ私は、母さんのようにはいかないよ」
シエラの寝息が聞こえてきた辺りでリチャードは脇にシエラを抱えるようにして再び夜空を見上げた。
瞬く星の正体を知りつつ、それでも昔母から聞いた、星は死んだ人の魂なんだと言う話を信じたくなる。
母はあの時私になんと言っていたか。
その答えを、リチャードはこの日の晩に夢で見る事になった。
「リック、私がいなくなったら夜空を見上げてね。私は星になってあなたを見守っているから」
懐かしい母の声に目を開くと、いつの間にか空が白んでいた。
いつ眠ったのかリチャードは覚えていないが、夢でまだ元気だった頃の母に会えた事は何故かハッキリと覚えていた。
「まだ母さんはそこにいるのかい?」空を見上げ、呟くリチャードの頬に一筋の涙が伝う。
答えが聞こえるはずもない。
明るくなってきた空に、星はもう見えなくなっていた。