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街道脇での野宿

 ヒュージボアの解体が終わる頃には上からリチャード達を眺めていた太陽は丘陵地の丘の向こうに沈もうとしていた。

 空の色に青と橙色が混じり合い、そろそろ巣に帰らなければならない鳥達が少し物悲しそうに鳴いている。


 解体したヒュージボアの肉、骨、そして魔物の魔物たる所以、魔力を発生させる為に必要な魔臓の中で生成された魔石をアイテムボックスに吸い込ませると、リチャードは一息ついた。


「ふう。流石に1人だと時間が掛かるな。随分久しぶりの解体作業だったが、どうにかなった」


 ナイフより包丁より、解体に使用した使い慣れた剣に付着した血や脂を振り払う。

 その昔、師匠が仲間と共に倒したドラゴンの骨と希少金属を混ぜ合わせて打たれた逸品らしい。

 形見でもあるその愛剣を鞘に納め、リチャードは眠っている筈のシエラの様子を見ようと振り返るが、そこに眠っている筈だったシエラはロジナの頭上に両手で頬杖をついてこちらを見下ろしていた。


「なんだ、起きてたのかい? 声を掛けてくれれば良かったのに」


「パパ忙しそうだったし、俺も冒険者になったら解体作業はしなきゃだからちゃんと見ておかないとって思って」


「参考になったかい?」

 

「ん〜。剣での解体は習ってないから分かんない」


「まあ確かに、普通は解体用の大振りのナイフや解体用にあつらえた短剣を使用するからなあ」


 血で汚れたコートを脱ぎ、水魔法で作った水球の中にそれを放り込んでリチャードはコートを洗おうと試みるが、どうにもロジナの時の様に血が落ちない。

 すると、ロジナから降りてきたシエラがリチャードが作った水球に手を突っ込んだ。


 みるみる分解されていく血と脂。本来ならその血脂で水球は濁る物だが、シエラの浄化能力はそれすら分解し、作り上げたばかりの水球の綺麗さを保った。


「やはりシエラの浄化能力だったか、水の女神様の加護でも特級ともなると凄まじいな」


「1人だった頃、コレが何なのかよく分かんなかったけど。俺が触った水は全部綺麗になってた」


「……そうか、女神様に感謝だな」


「ん。でもママと居させてくれないから、それは怒りたい」


「ははは。では出来るだけ早くママに会えるように今日はもう少し歩こうか」


「ん。歩く」


 すっかり綺麗になったコートをアイテムボックスの中に入れ、リチャードは麻袋を担ぎ上げるとシエラに手を伸ばした。

 草と花を踏み進んできたリチャードとシエラは街道の固い土を遂に踏む。


 ロジナも2人に続いて歩くがどうやら結界石はロジナには効果が薄いようだ。もしくはロジナが結界石を気にしない程に強力な個体なのだろう。

 様子を見る為に振り返ったリチャードに対し、ロジナは「何ですか?」と言わんばかりに首を傾げていた。


 親子2人と巨大な狼1匹は街道を進んでいく。

 しかし、解体に時間を取られたせいもあって、空からはついに青色が消え、橙色一色に染まり、そこに夜の闇色が混ざっていく。

 街道の両脇には芝生の様な低い草が絨毯のように拡がり、所々に樹木が並ぶ林が点在していた。

 その林から何やら気配を感じるが、ロジナの存在がそうさせるのか、はたまたリチャードの気配に警戒しているのか林の中の何者かはリチャード達を襲う事なく気配を消した。


「パパ、さっきのーー」


「お、ちゃんと気が付いていたね。姿は見えなかったから断言は出来ないが、動物の類では無いな。魔物がいるみたいだ、まあロジナがいれば大丈夫さ。完全に暗くなる前にもう少し歩こう、林から離れた場所で野宿だ」


「ん。わかった」


 夜を報せるように涼やかな風が2人の頬を撫でた。

 その風はとても優しげで、ここまで歩いてきた親子2人と狼を労うようにすら感じられた。


 しばらく歩いていると、太陽の残火のような紫色の空は完全に黒一色に染まった。

 街灯などは一切無いが、月と星の光で足元どころか少し先までなら問題なく見渡すことができる程には明るい。


「コレならもう少し歩けそうだ」

 

 呟きながらリチャードはシエラと手を繋ぎ、シエラの歩幅に合わせてゆっくり歩く。

 ロジナは時折警戒するように耳を動かし歩くが、リチャードやシエラを追い抜く事はせずに2人の後ろをついて行く。

 そんな時、誰かの腹から空腹を知らせるグゥという音が響いた。


「今の音、パパ?」


「うむ私だ。腹が減ったな。林からは随分離れたし、この辺りで野宿の準備をしようか」


 街道の脇、草のあまり生えていない場所を見つけたリチャードはそこにアイテムボックスの中から木材を取り出すと魔法で火をつけた。

 今日の夕食はロジナが狩ったヒュージボアの肉だ。

 ヒュージボアの骨を剣で斜めに断ち、そこに肉を刺して焼くだけの簡単な料理だ、調味料は無いし処理も完全で無い為臭みもあるが、空腹は最高の調味料とは誰の言葉だったか、リチャードとシエラは美味しく猪肉を頂いた。

 

 面白かったのは焼いた猪肉を初めて食べたロジナの反応だった。

 犬、いや狼の場合でも猫舌と言うのだろうか?

 いつもの生肉を食す勢いで焼きたての肉を口に放り込んだロジナだったが、熱すぎたのか「キャン!」と、なんとも情けない声を上げて肉を吐き出しては鼻で突いたり、舐めて温度を確かめながら少しずつ肉を食べていた。


「熱かったかい? すまない、ロジナには生の方を渡すようにするよ」


「ロジナ大丈夫?」


「ワフ」


 食事を終えれば後は寝るだけ、敷物を敷き、毛布を取り出し寝転がる2人の枕元にロジナが寝そべる、そんなロジナの腹にシエラが枕代わりと言わんばかりに頭を乗せたので「私も便乗して良いかな?」とリチャードも頭を乗せた。

 それが嬉しかったのか、ロジナは尻尾をブンブン振っていた。



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