鑑定診察の結果
診療院の院長は鑑定魔法でもたらされた情報を鑑定書に書き記していく。
時折「ほお」と呟いたりするが、その皺の浮かぶ顔には笑みが浮かんでいた。どうやら悪い病気は無い事がうかがえる。
「養子、だったね。そうかい……良かったねシエラちゃん。この人に引き取って貰えて」
鑑定魔法が使えないリチャードには院長がシエラの情報がどこまで視えるのかは分からない。
しかし、その悲しいやら安堵しているやら複雑な表情からシエラが捨て子だというのはバレているようだった。
「悪い病気は無いね、安心しなさい。
栄養不足とあるが、まあそれも改善中みたいだし問題は無さそうだ。
やや成長に遅れが診られるが……まあこれは仕方無いかね。
それから……凄いじゃないか、女神アクエリアの加護を賜っているようだ、それもかなり強力なね。恩恵は理解しているかい?」
院長の言葉に「やはりか」と思いつつリチャードは頷く。
女神アクエリアの加護。
触れた水の浄化、水魔法ヘの耐性と親和性の向上など水にまつわる各種加護をシエラは賜っていたのだ。
一部に青みがかる、なんてものじゃない。
一見すると白髪にすら見えるシエラの髪だが、毛先は濃い青で、他は薄い水色。
頭髪に加護の影響が現れるこの世界でシエラの髪色はかなり特別な意味を持つ。
強力な水の浄化効果。体内に入った毒素すら消し去るこの恩恵が、シエラがリチャードと出会うまで生き延びる事が出来た要因と考えられた。
「私も長いこと生きてるが、これだけ強力な加護も珍しい。
リチャードさん、シエラちゃんをしっかり育ててあげてくださいね」
「はい、もちろんです先生」
「よし、診察は終わり。これが鑑定結果ね、じゃあシエラちゃん、お父さんと仲良くね」
「ん。ありがとう」
院長に頭を下げてお礼を言い、受付に戻って会計を済ませると、2人は家に帰らず街の市場の方へと足を向けた。
「シエラ・シュタイナー、か」
渡された鑑定書に書かれた名前を見ながらリチャードが頬を緩める。
不思議な感覚だと、リチャードは鑑定書を折り畳んでズボンのポケットに入れながら思う。
鑑定書にシエラ・シュタイナーと記入されたという事はこの世界の神が2人を家族と認めたという事。
嫁どころか、恋人すら出来たことがないのに、リチャードは娘を授かった訳だ、まるで聖母のように。
「親父?」
「いや、なんでもないよ。
シエラ、おいしいケーキでも食べないか?」
「ケーキ? ケーキって何?」
「砂糖入り牛乳より甘くて美味しい食べ物さ」
「おお~。食べたい」
「よし、じゃあお店に行こう、足が痛くなったら言うんだぞ?」
2人は街の市場にある喫茶店へと途中休憩を挟みながら向かう。
晴れ渡る青い空が2人を祝福しているようだった。