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里を出る親子

 一晩、リチャードとシエラはエルの家で世話になった。

 その間にエルの奥方、つまりはアイリスの母親にも会うことになりリチャードとシエラは挨拶をする。

 アイリスが幼少の頃この里でどんな生活をしていたのか聞くと、どうやら子供の頃から狩猟班の狩人達に無断で混じって剣による狩りをしていたらしい。


 そんなアイリスの過去の話を聞いたり、逆にエドラでの思い出話をご両親に聞いてもらったりした翌日。リチャードとシエラは早々にエルフの里を発つことにした。

 急いでいたわけではない。いや、急いだのだ。あまりの住心地の良さにリチャードはここに住むのも良いなと思ってしまった。

 

 それは駄目だ。そうなればいよいよエドラの街に帰るのが億劫になってしまう。


 そんな考えに至った為にリチャードは早々に里を出ようと考え、その日の晩にエルやアイリスの母に考えを伝えた。


「止めはしないよ。でもそうだね、いや、う~んこれ言っても怒られないかなあ」


「なんでしょう?」


「出来れば死ぬ前にアイリスと一緒に帰って来て、また元気な顔を見せてほしいなって思ってね。ほら、人間はさ、百年くらい生きたら死んじゃうから」


「そうですね、約束します死ぬ前に此処に必ず顔を見せます」


「その時は二人目の孫も一緒に頼むね?」


「う、はい。善処、します」


 大木に作られたエルの家のリビングで身を包む程のクッションに座り話をしているリチャードは、寝てしまったシエラを抱えながら気まずそうに愛想笑いを浮かべる。

 それを見たエルと義母は大層嬉しそうに微笑んでいた。


 その翌朝、リチャードは世話になった二人だけでなくルナへの挨拶のために巨木で出来た教会を訪れる為にエルに付き添われ、里を歩いていたのだがその目の前に、教会の方からこちらへ歩いてくる一団と遭遇した。

 ルナとその護衛、そして世話役のエルフ達だった。


「おはようございますルナ殿、丁度そちらへ向かうところでした」


「おはよう大婆ちゃん。婆ちゃん? いや、やっぱりルナちゃんって呼んでも良い? 婆ちゃんはなんかちょっと変な感じする」


「かっかっか! まあシエラからすれば私は小さい子供にしか見えんからなあ。良い良い、ルナちゃんと呼んでおくれ」


「良かったなシエラ」


「ん。友達が増えた」


「友達か、悪くないのう。さて、里を出るんじゃろう? 寝袋やらなんやら旅に必要そうな物を準備させたゆえ。アイテムボックスに入れておいき」


「考えは読まれてましたか。餞別ありがたく頂戴致します」


 世話役エルフ達が抱えていた荷物をリチャードがアイテムボックスに吸い込ませるのを見て、ルナはリチャードとシエラを率いて里の出口を目指して歩き始めた。


 里の出口まで向かうまでにリチャードとシエラは昨日とは違いルナと色々な話をした。

 というのもルナが別れを惜しんでリチャードとシエラにあれやこれや声を掛け続けたからだ。


「久し振りに里の外から客人が来たもんだからはしゃいでしもうたわい。二人共、元気でな」


「ルナ殿も、お体にお気をつけて」


「っはっはあ。千年を生きるエルフのババアの体を気遣っとる場合かお主は。そっちこそ健康には気を使えよ? 人間は戦闘力ばかり強く進化しよってから」


「ははは。それもそうですね。では私達はこれで」


 ルナに案内された里の周辺を囲む岩壁に空けられた洞窟の手前でリチャードとシエラは世話になった皆に手を振り洞窟へと足を踏み入れた。

 松明ではなく、リチャードの家にある魔力で光る魔光灯で壁や天井、床が照らされた洞窟の中。

 そこに一人のエルフが立っていた。

 遺跡の結界から里まで案内してくれた青年だった。


「最後の道案内は私が」


「ああ、見ないなと思ってました。手間を掛けます」


「ありがとう、お兄ちゃん」


「ははは。光栄です勇者様」


 入り組んでいる訳では無い洞窟だが、エルフの青年は「足元、段差にお気を付け下さい」などと二人を気遣いながら先導してくれるお陰で、リチャードとシエラは長い長い整備された洞窟を躓く事もなく踏破することが出来た。


「さて、私はここまでです。お二人の旅路に幸多からん事を」


 洞窟の出口から差し込む逆光に背を向けて、エルフの青年がお辞儀をする。

 リチャードとシエラはエルフの青年に「ありがとう」と言い残して洞窟の出口から外に出た。


 そこは色鮮やかな様々な花が咲き誇る丘陵地帯だった。

 空には抜けるような青空が広がり、エルフの里とはまた違った爽やかな風が花の香りを運んでくる。

 

「ふわ〜。綺麗な場所だねえ」


「ああ、良い場所だな。なんでアイリスは里から出たんだろうなあ」


「ママには狭かったのかも」


「はっはっは! 確かにそうかも知れないな」


 二人は花が咲き誇る丘陵地帯を歩き始めた。

 遙か彼方の住み慣れた街、住み慣れた家、自分達を待つ愛すべき人を目指して。

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