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隠しても、バレるときはバレる

 思えば不思議な事だと、リチャードは考えていた。

 初めて会うはずのルナ、エルフの里の一つであるシーリンの森の長の事をリチャードは何故か信用してしまっていた。

 里まで案内してくれた、人当たりの良さげだったエルフの青年にすら剣を抜いたリチャードがだ。

 見た目、声、雰囲気。

 それら全てが信用に足る物だったかと問われればリチャードは恐らく「いや、そういうわけではない」と答えるだろう。

 リチャードが見た目の幼い老エルフ、ルナを最終的に信用した要因は単純に“強さ”だった。


 手をかざされた時、リチャードが感じたのはドラゴンのような存在感と心臓を鷲掴みされるような圧迫感。

 しかし、それでいて殺気を感じる事は一切無いという不気味さは神秘的にすら思えた。

 故にリチャードはこの幼い見た目をしたエルフを信用したのかも知れない。

 強者特有の余裕、弱者を謀る事など一切不要というその様がリチャードを戦わずして、屈服させたのだ。


 もし神様が目の前にいたならば、このようなプレッシャーを感じるのだろうか。


 リチャードは娘に歩み寄るルナを見ながらそんな事を考えていた。


「おやおや? 本当に剣を抜いていないのかい?」


「ぬ、抜いてないもん」


「ほーう。なるほど、ではリチャードよ、アイテムボックスを私に渡してくれんかね?」


「え? ああ分かりました」


 リチャードは渡されたコートと共に床に置いていた麻袋を拾い上げると、中からアイテムボックスを取り出し、ルナに渡す。

 そのアイテムボックスを眺めながら「ふむ、コレがアイテムボックスか、存外単純な術式なんじゃなあ」とニヤニヤしながら一歩二歩とシエラから離れていく。


「ああ、そうじゃシエラちゃん、台座の剣はどんな型だったかの?」


「え? 型?」


 と、ルナはシエラに聞きながら突然アイテムボックスをシエラに向かって放り投げた。

 アイテムボックスは貴重品、そんな事を聞いた直後だ、シエラは咄嗟にアイテムボックスを受け止める、脳裏に先程のルナの質問「剣はどんな型だったか」の答えを思い浮かべながら。


 アイテムボックスはシエラの思考を読み取り、中に入っていた剣の柄を吐き出すように出現させた。

 リチャードがどれだけ力を込めようがピクリとも動かなかった剣の柄がそこにあったので、リチャードは目を丸くしてシエラを見る。


「まさか、あの台座の剣を抜いたのか?」


「……うん。抜けちゃったから、怒られると思って、隠してたの」


 怒られると思ったのか、泣きそうな顔でリチャードに言うとシエラは俯いてしまった。

 しかしまあ、リチャードがそんな事で娘を怒るかと言えばそうでもない。

 そもそも最初に剣を抜こうとしたのはリチャード本人なのだから。


「リチャード、この剣に触れられるかい?」


「ええまあ、台座に刺さっていた時は普通に触れましたから」


 それはつまり触れという事か? と思い、クッションから立ち上がったリチャードはシエラの座るクッションに近付き「大丈夫、パパは怒ってないよ」とシエラの頭を撫でながらアイテムボックスを受け取り、剣の柄を掴もうとした。


 しかし、その手はバチンという静電気でも弾けたのかと思う程の音を発してリチャードを拒絶した。


「パパ!? だ、大丈夫?」


「あ、ああ大丈夫だ。なんだ。痛、くはないが、触れない」


「なるほど、文献通りか。ならやはり、選ばれたのは娘の方なんじゃなあ」


 リチャードが剣の柄に拒絶された衝撃で床に落としたアイテムボックスを拾い、ルナはほくそ笑む。

 そしてルナはシエラの前にアイテムボックスを置くと「さて、剣を抜いて見せてくれんかね? 今代の勇者殿」と先程と同じ様にシエラから離れていくと自分の特大クッションに腰を下ろした。


「パパ、俺――」


「怖いなら、無理に抜かなくも良いぞ。ルナ殿も分かって下さる」


「……大丈夫。俺は冒険者になるんだから」


「ああ、そうだ。そうだったな」


 先程までの泣きそうな顔は何処へやら。

 リチャードの気遣いが逆にシエラを煽った形になってしまったようで、シエラはアイテムボックスを拾い上げると再び剣の柄を思い浮かべ、柄を出すと、一呼吸おいて柄に手を伸ばした。


 剣の柄はもちろんシエラを拒まなかった。


 柄を手に取り、剣を鞘から抜くように、アイテムボックスから剣を抜く。


 青を基調に金の意匠が施された柄にやや幅広の刀身を持つ両刃の剣がアイテムボックスから姿を現す。

 その刀身には古代文字なのか、何やら碑文が刻まれていた。


「全ての悪を滅ぼし、いつか世界に平穏を、この剣を継ぐものに幸多からん事を、か。なんとも甘っちょろい文言だのう」


 剣の碑文を読んだのか。かっかっかとルナは笑い、困ったように眉をひそめ、剣を掲げるシエラに微笑みを向けた。


「あの、ルナ殿。この剣は一体何なのです?」


「何なのですも何も、勇者が持つ剣なのだから、聖剣以外にあるまいよ」


「いや、そうですよ。その勇者とはなんなのです? 私の娘を何故勇者と呼ぶのです?」


「まあそう急くな坊や。私とて全て知っているわけではない。まずは女神グランディーネ様から聞いた神託の話からするとしよう……飲み物が来てからな」

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