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義父に挨拶をと思ったら

 人間ある程度経験を重ねると緊張というものをしなくなる。

 しなくなるは言い過ぎかもしれないが、若い頃に比べれば間違いなく緊張し辛くなる。

 それも個人差ではあると思うが、リチャードという人物はそうだった。

 対面する人物が国王であろうとも、敬意は払い頭は垂れるものの、緊張してしどろもどろすることはない。

 アイリスを一筋に想っていた事もあってか、少年期の頃から女性からの誘惑にも緊張したりはしなかった。

 

 クエスト中に魔物と相対した時もそうだ。程良く緊張はするが、緊張感で体が動かなくなった事も無ければ、戦争に参加させられ敵の軍勢を目にしてもリチャードは退かなかった。


 そんな彼が今、一人のエルフの存在に極度の緊張を感じている。


「あの、エル殿」


「どうしました?」


 螺旋階段の途中、普段ならば息すら上がらないだろう、その緩やかで低い階段を歩いているリチャードの心臓は内側から無数の針に刺されるように、今にも張り裂けそうだった。 


 声を掛け、足を止めたリチャードの脳はフル回転で何を言うかを考えていた「リチャード、これはチャンスだ、普通に生活していては会えなかったかも知れない御父上が眼の前にいるのだぞ」自分にそんな事を何度も言い聞かせ、口を開こうとしてリチャードは深呼吸する。


 その瞬間だった。


「ママのパパだから俺の爺ちゃんになるんだよね?」


 シエラが屈託のない笑顔で隣に立つリチャードを見上げて目を輝かせた。


「あ、っと。えーそうだなあ。そうなるなあ」


「ママ? シエラ様のお母様はエルフなのかい? どんな方なのかな?」


 螺旋階段を再び昇り始め、階段を昇り切った先でエルはしゃがみ込んでシエラに視線を合わせると、微笑みながら聞くが、その微笑みが、リチャードの心臓を抉る。


「あの、エル殿。実は私、エル殿の娘さんであるアイリスさんと婚約してまして」


「パパのお嫁さんになる人だから、アイリスはママなの」


「え?」


「あの、はい。ちょっと待って下さい、順を追って説明します――」


 胃がキリキリ痛むのを我慢しながらリチャードはアイリスとの出会いから、今までの事をざっくり説明し、シエラとの出会い、転移してくるまでの3人の生活の様子を話した。


「あのお転婆娘がいつの間にか相手を見つけていたのですね……ははは。いやあいつの間にかお爺ちゃんになっていたなんて」


 驚いていないわけでは無さそうだった。

 混乱しているのか、人差し指で額を眉間を抑え何やら色々考え込んでいる。


「という事は、リチャード様は私の義理の息子になるんだね?」


「アイリスさんとの婚約を認めていただけるなら、そう、なりますね」


「娘が認め、求めた人です。私がとやかく言う筋合いはありませんし、言う必要すらありません。どうやら200歳を迎えてもお転婆は治っていないようですが、娘を頼みます」


「私の命が続く限り、全力で期待に応えられるように頑張ります。エル殿」


「お義父さんと呼んでくれても良いよ?」


「あ、はい。ではお義父様と」


「固いなあ、真面目なんだねえリチャード様、いや、うちの息子は」


 エルは考えた末に割りとあっさりリチャードとアイリスの関係を認め、二人の事を祝福し、シエラに近付いては「まさかこんな可愛い孫が出来るなんてねえ」と頭を撫でて微笑んだ。

 

 そんな時だった。

 2階にある大部屋、その大部屋に続く両開きの扉が内側から勢い良く開いた。

 それはもう蹴り開けた程の勢いだった。


「エル? 貴様客人といつまで話し込んでるつもりじゃ? はよう連れてこんか」


「ああ、これは巫女姫様。失礼、その客人が私の息子と孫だったようで。

 紹介するよ二人共。あの小さいのがこの里の巫女様で、女神グランディーネ様から神託を賜った方だよ」


「貴様、私の事を小さいとぬかしおったな?」


 大部屋から現れたのはシエラが着ている白いワンピースと同じワンピースを着ており、手足に金細工の施されたアクセサリーを巻いたシエラよりも小柄なエルフの少女だった。

 髪は長い金髪を後頭部付近にバレッタで止めており、エルフ特有の長い耳にも金のイヤリングを止めている。

 

「そなたがシエラ・シュタイナーか、なんじゃ随分ちんまいのう」


「アナタの方が小さくない?」


「こらシエラ、やめなさい」

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