健康状態を診てもらおう
一夜明け、寝ぼけ眼を擦りながらもシエラとリチャードは共に朝食を食べ、そのあとはリチャードがシエラに教えながら歯を磨く。
その後、しばらくリビングで寛いだリチャードは常用のシャツとズボンに着替え、出掛ける準備をしてシエラが着替え終わるのを待っていた。
「好きな服を選べとは言ったが……露出が多くないかい?」
「駄目か?」
「いや、まあ駄目とは言わないよ。元気そうでむしろ良いまである」
「外に行くなら動きやすい方が良いかなって思って」
今のシエラの格好は下は4分丈のレギンスの上に短パン、上は胸だけを隠したチューブトップの下着に半袖のシャツを前のボタンを開けて着ている。
昨晩着ていたワンピースの時に比べると随分活発な印象だ。
「一見すると小さなスカウトのようだな」
「スカウト?」
「冒険者の中でも素早さや器用さに特化した人達の事だよ。斥候役でもありパーティの先陣を担う事もある。ところでその格好、寒くはないのかい?」
「リチャードと一緒ならここがポカポカして暖かいから大丈夫」
言いながら、シエラが胸あたりを触り微笑んだのを見て、初めてのシエラの笑顔にリチャードは驚いて目を丸くして「愛らしく笑うじゃないか。随分懐かれたものだ」と、リチャードも嬉しくなりシエラに微笑みを返した。
「まあシエラがそれで良いなら良いか。よし行こう、手は?」
「ん、繋ぐ」
仲良く手を繋ぎ街に出た2人。
シエラの薄い水色の髪が太陽に照らされてキラキラ輝く様子はまるで水面が陽光を反射するように美しい。
「生活用品店の店員には感謝しなければな」
風になびくシエラの短い髪は出会った当初のボサボサとは違いストレートに下に向かって伸びている。
ややお高い買い物だったが、頭髪用洗剤の効果は大いにあった訳だ。
しばらく歩き、辿り着いたのは街に点在する診療院の内の一軒。リチャードの家から1番近い診療院。
「あら、リチャード・シュタイナーさん? 珍しいですね。今日はどういったご用件かしら」
「やあヒーラーさん。今日用があるのは私ではなく娘でね。
細かい部分は省かせてもらうが、養子を迎えてね。
なので、鑑定診察をお願いしたいんだが」
「あらあらあら、まあまあまあ。なんて可愛らしいんでしょう。分かりました鑑定診察ですね。
しばらく掛けてお待ち下さい」
ヒーラー、看護師の年配女性はシエラを見て微笑むと、リチャードに言って何やら書類を書き始める。
待合室はチラホラ人がおり、その中の数名は口に手を当て咳き込んでいた。
「ここで何するんだ?」
「シエラの体に怖い病気がないか診てもらうのさ。
人は健康でいるのが1番だからね」
「俺、病気なのか?」
「それを今からお医者さんに診てもらうんだよ。
お行儀よくできるかい?」
「うん。リチャードが、親父が望むなら大人しくしてる」
「そうか、偉いな」
シエラの頭を撫でるリチャード。
他の来院者はそんな2人を微笑ましく眺めていた。
それからしばらく待っていると、不意に先程の年配のヒーラーさんに「シュタイナーさんこちらへ」と呼ばれたので2人は案内されるがまま診察室へと向かう。
木の廊下が微かに軋みを上げ、三人分の足音が静かな診療院に響いた。
「ごきげんようリチャードさん、今日は娘さんを連れてきたって?」
「ええ、養子ですがね」
「ふむ、まあ詮索はしません。失礼ですからね」
「お気遣いありがとうございます。
シエラ、先生に挨拶出来るかい?」
「ん。シ、シエラ・シュタイナー、です。よろしく……おねがいします」
「はい、よろしくねシエラちゃん。
じゃあ鑑定診察を始めましょうか」
受付けの年配ヒーラーより更に歳を重ねた皺の目立つこの診療院の院長が、リチャードが目の前の椅子に座らせたシエラの頭に手を置く。
少しばかり身じろぐシエラだったが、後ろに立つリチャードが「大丈夫だ、シエラ何も怖くないよ」と呟いたので、それを信じて姿勢を正すと、院長先生が発動した魔法を大人しく受けた。