シエラが寝た後に
アイテムボックスの中からの毛布の出し方が分からず、箱をひっくり返したり魔力を流し込んだりしてみるも、リチャードは箱から毛布を取り出せないでいた。
いい加減夜風も冷える。
焚き火は有れど寒いものは寒い。
シエラはリチャードに抱えられるようにして座っているため、焚き火と背中に感じるリチャードの体温で暖かいが、リチャードの背中は風が吹くたび寒々しく震えた。
昨晩使った毛布が恋しくなり、リチャードがその毛布を思い浮かべた時だった。
アイテムボックスから毛布の端が、にゅっと土から草の芽が生えてくるように飛び出す。
「おお? なるほどなるほど、いや確かにそうだ。取り出したい物が分かっていないと、何を出せば良いか分からないものな」
「どうやったの?」
リチャードに抱えられ、焚き火に暖められ、若干おねむのシエラがリチャードに体を預けるように体重を掛けながら聞く。
そんなシエラにリチャードは「昨日小屋にあった物を想像してごらん?」とアイテムボックスを触らせた。
「んー。じゃあ顔洗ったお皿ぁ」
リチャードに言われるままにアイテムボックスに触ったまま今朝使った深皿をシエラが思い浮かべると、毛布と同じように皿がアイテムボックスから、正確にはアイテムボックスの口から少し離れた場所に現れた穴から皿の縁が現れる。
「ふふ、へんなのお」
皿を取り出してはアイテムボックスの中に入れ、もう一度取り出しては片付けしていたシエラだったが、リチャードが毛布を羽織った辺りで眠気がきたか、シエラはリチャードに身を任せて眠ってしまった。
「おや、座ったままでは辛かろうに」
足を抱えて座り、眠るシエラをリチャードはいつしか初めて風呂に入れた時のように、赤子を抱くように抱えてシエラを寝かせる。
シエラはリチャードのその行動に目を覚ますが、リチャードが困ったように苦笑したのを見て「ありがとうパパ、おやすみなさい」と再び目を閉じた。
火の番をしながらしばらく、リチャードは風が吹いた際の森や草のざわめきに聞き耳を立てるが、やはり生き物の気配は無い。
あのゴーレムが倒しているのか、それとも結界のような物で守られているのか。
そんな事を考えながら、それでもリチャードは万が一を考え、昨晩とは違い眠らずに辺りを警戒していた。
そんな時だ。
リチャードの耳に昼間に聞いたゴツン、ゴツンというゴーレムの足音が聞こえてきた。
緩慢な動きをしているとはいえ、体長3メートルの巨体の歩幅は親子二人が休んでいる間に追いついてきたわけだ。
しばらくして、暗がりから焚き火に照らされ、あの苔だらけのゴーレムが姿を表した。
不思議そうに首を傾げるその姿は、リチャード達が何をしているのか分からないと言っているように見えなくもない。
「やあ、ゴーレム君。追い付かれてしまったようだ。こんな夜遅くまで見回りかい?」
ゴーレムがゆっくり頷く。
「日が暮れてしまってね、今日はここで野宿することにしたんだ。君は休まないのかい?」
言葉が通じるのが嬉しくて、リチャードは再びゴーレムに話し掛けた。
そんな時、風が吹いてリチャードの鼻をくすぐる。
くしゃみをして、鼻をすするリチャードは「いやあ、今日は冷えるねえ」とゴーレムに恥ずかしそうに笑いかけた。
すると、ゴーレムの巨体がバラバラに分解したかと思うとリチャードと焚き火を中心に、囲むように岩が弧を描いて積み上がっていく。
だが、明らかにゴーレムの体を形成していた岩よりも量が多い。
「はは。どうなってるんだこれは。もしかして君、本当はもっと巨大なのか。その体でもって風除けになってくれてるのかい?」
ゴーレムの核であろう青い宝石が嵌まった岩が、先程までゴーレムの立っていた位置に置かれている。
「ありがとう、助かるよ」
そんなリチャードの言葉にゴーレムの頭が左右に首を傾げるように揺れた。
どうやら、ゴーレムはリチャードの言葉に喜んでいるようだった。