旅立った日の夜ご飯
長い長い石畳の回廊を、休み休み進んでいたリチャードとシエラの二人だったが、遺跡群を抜けたのか、辺りからそれらしい建造物が一つも見えなくなった辺りで二人は森に差し込む日差しが傾いている事に気が付いた。
「眩しい」
「ふむ、という事は私達は今西に進んでいるという事だな」
石畳の道路に沿って歩いていただけだったが西日を正面に歩いている事で、方角はとりあえず確認出来たので、暗くなっては「このままでは食料の調達もままならん」というリチャードの考えから、二人は道を逸れて森の中へと入って行った。
しかし、森の中で迷子になる可能性もあるため、あまり道から離れないようにして二人は木の実かキノコ類を探す。
「パパ、青いのって大丈夫だっけ?」
「ああ、基本的に色が鮮やかな程毒性が強かったりするんだがね。青いキノコは薬草と混ぜて回復促進剤にしたり、毒消し草と混ぜて解毒薬を作ったり出来る物なんだ。食べれなくはないよ。そうだな……食べれなくはない」
「不味いってこと?」
「まあ、そういう事だ」
「こっちの茶色いのは?」
「お、それは食べられるぞ。ただ、そっちの似たようなキノコは駄目だ」
「茶色い傘に白斑のキノコ?」
「そうだ、そっちのキノコは茶色いキノコにそっくりだが、猛毒だからね」
「地味なのに」
「確かにな。よし、とりあえず取れるだけ取って道に戻ろう。本当に帰り道が分からなくなってしまう」
リチャードとシエラは見つけた食用のベリー系の果実とキノコを麻袋に入れて、完全に森が闇に包まれる前に石畳の道に戻る。
薪に至っては選り取り見取り。
二人は道の端に寄り、焚き火をしてベリーを頬張りながら枝にキノコを刺して炙り焼きにすることにした。
太陽は完全に姿を隠し、地平線からは月が顔を出す。
しかしその様子はリチャードとシエラからは見えない。
辺りは真っ暗な森が広がり、時折吹く風が木々をざわめかせ、ついでに二人の髪や頬を撫でて通り過ぎていく。
「へっ……くち」
「おや、大丈夫かい?」
「ん。大丈夫」
焚き火は着いている。シエラの鼻をくすぐったのは寒気では無く、風が運んできた砂塵だった。
それでも二人は寄り添って座って焼いたキノコを頬張る。
「お、旨い。しかしおしいなせめて塩があればな」
「たひかに。ん。俺は、ドレッシングも付けたい」
茶色いキノコを焼き、頬張るシエラを見下ろしながらリチャードもキノコをかじる。
そんな夕食を終わらせた後の事。
リチャードはアイテムボックスに入っているはずの毛布を取り出そうとして麻袋からアイテムボックスを取り出すと、シエラを後ろから抱くようにしてシエラの前で箱を開いてみる。
しかし、聖遺物の取り扱い方などリチャードやシエラが知るはずもない。
「中に入れるのはなんとなく近付ければ良いかと思ってそうしたが……取り出しはどうするんだろうか」
箱を開いて手を入れようとしても箱に手は突っ込め無い。どうやら生き物は入らないらしい。
次にリチャードは箱を開けたまま逆さに向け、箱を振るが中からは毛布は愚か塵の一つも出てこなかった。
この時、リチャードが箱をひっくり返して振るものだから、シエラは中から抜いた剣が出てくるのではないかと気が気でなく。
冷や汗がシエラの額から頬を伝ったのだった。