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遺跡から続く道での出会い

 リチャードとシエラは剣の刺さっていた祭壇のような場所を背に道を進み続けた。

 遺跡群から延びる石畳の道。

 長年放置されている筈の道だというのは見れば分かる程には整備されてはいないが、遺跡から森へと続いているこの道は草などには覆われていなかった。

 馬車が通れそうな程には広い道の両端は高い草で壁ができているにも関わらず、リチャードとシエラの進む道は実に綺麗な物だ。


「ああ、すまないシエラ。荷物を持たせっぱなしだったね」


「ううん。大丈夫」


 石畳の道を歩いていたリチャードはシエラが麻袋を大事そうに抱えているのを見て言った。

 シエラの顔色が少し悪いのを見て、リチャードは「アイテムボックスのような貴重品を持たされては当然か」とシエラから麻袋を預かり口紐を肩に掛けて背中に担ぐ。

 麻袋を預かる際にシエラがなんとも言えない安堵した表情を浮かべていたが、微かに瞳が潤んだのを見て、リチャードは首を傾げる。


 そんな時だ。

 リチャードとシエラの耳にゴツン、ゴツンと岩をぶつけ合うような音が届いた。


「なにか来る、人……ではないな」


 生物の気配、生き物特有の息遣いは感じられない。

 リチャードとシエラは腰の剣に手を掛けて警戒態勢を取る。

 

 音は二人の進む方向、木を迂回するように曲がった道の先から聞こえてきた。


 魔物であるならば、隠れて様子を見るところだが、一定間隔で聞こえてくるその岩がぶつかり合うような音がリチャードには足音に聞こえ、いつでも逃げられるように道の端に寄りつつ正体を確かめようとする。


 しばらくして、木の陰から現れたのは岩の人形。

 体高にして3メートル程、幅は道幅半分程のゴーレムと呼称される分類の魔物だった。


「パパ、どうするの?」


「さて、どうするかな」


 所々苔を生やしたゴーレムはこちらを確認済みのようだ。

 人間で言えば顔にあたる部分。丸みを帯びた岩の真ん中に嵌められた宝石のような石がリチャードとシエラを見ていた。正確には見ているように感じたと言う方が正しいが。

 確実にゴーレムはリチャードとシエラの方を向いては歩みを進めてきた。


 ただ、一般的に。というよりはこの世界のゴーレムは基本的に温厚な性質で、危害を加えなければ自分から他の生物は襲わないことで知られている。

 

 故にリチャードは剣を抜かず、剣を抜こうとしたシエラの手をおさえて制止した。


 ゆっくりと、しかし確実にゴーレムはリチャードとシエラを目掛けてゴツン、ゴツンと足音を鳴らしながら迫ってくる。

 そして、ゴーレムは親子二人の眼の前で止まり、片膝立ちになると片腕は胸に当て、もう片方の腕は地面に付き、更には頭を下げた。


「君はもしかして、この遺跡……失礼。この街の警護をしているのかい?」


 リチャードの声に、ゴーレムは答えない。

 それもそうだろう、発声機能などゴーレムに有るはずもないのだから。 

 しかし不思議な事に、言葉は理解しているのか、屈んでもリチャードの背丈を有に超えるゴーレムはリチャードの言葉にゆっくりと、頷いて応えはするのだった。


「なるほど。道に草が生い茂ってないのは君が踏みならしているからか」


「パパ、危なくないの?」


「養成所で教えた通り、ゴーレムはこちらから攻撃しない限りは危険は無いよ。しかし、凄いな。人間に対して礼をするゴーレムなど、見た事がない。もしかしたら遥か昔の魔法使いが創った個体なのかも知れないな」


 親子に頭を下げるゴーレムの頭部の青い宝石がリチャードを見ていた。その頭部が微かに動き、今度は青い宝石にシエラの顔が反射して写る。

 すると、ゴーレムが二人に向かって胸にあてている手を伸ばしてきた。


 何かをくれと言っているように感じるがそうではない。


「パパ?」


「大丈夫。見てなさい」


 シエラに言うと、リチャードは自分の手をゴーレムの手の先にある自分の手の平より大きな指の上に乗せると「いつも見回りご苦労様、ありがとう」そう呟いてゴーレムの手から自分の手を離した。


「膝を付いて手を伸ばすのは、王や主、目上の人から言葉を直々に貰う時の所作だ。

 やはり予想通り、この子は人間に創られたんだろうなあ。

 シエラもこの子に何か言っておあげ」


「ん。分かった」


 リチャードがシエラを抱き上げ、シエラも父の真似をしてゴーレムに手を伸ばしゴーレムの指に手を乗せる。

 

「えっと。ゴーレムさん、いつもお疲れ様……です」


 シエラが手を離すと、ゴーレムは手を再び胸に当てると立ち上がり、向きを変えると親子が歩いてきた方へと歩き始めた。

 ゴツン、ゴツンと再び鳴り響く足音。

 その足音が、何故だろうかリチャードにもシエラにも先程よりは軽やかに聞こえ、そのゴーレムの後ろ姿はどこか嬉しそうに見えた。


「あのゴーレムはいつまで此処にいるの?」


「街が朽ち果てても動き続けている彼を創った魔法使いは優秀だったのだろうから……いや、正直私には分からないな」


「なんだか、可哀想」


「そういう見方もあるか。でも哀れんでは駄目だよシエラ。彼は主命を守り、忠実に仕事を熟しているんだから。それに彼らには感情なんて無いんだ…………無いはずなんだ」


 もう誰もいない街に向かうゴーレムの背中を見送るリチャードとシエラ。

 彼はこれからも誰もいない街とこの道を歩き続けるのだろうか。

 リチャードはそんな事を考えながらシエラを抱えたまま、再び歩き始めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] パパの常識が音を立てて崩れていくぅ! 聖剣抜いたのを隠したのはある意味正解というか、もうここまで溺愛してしまったら娘が勇者に選ばれたなんて知ったらパパが女神にキレそう このクソ女神ぇ!!!…
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