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寝る前にちょっと勉強をしようか

 小さなコップにいれた甘い牛乳を、腰に手を当ててグイッと一気に飲むリチャード。


 それを見て、シエラもリチャードの真似をして一気に牛乳を口に含んで飲み込んだ。


 夕食前に与えた牛乳が入ったコップに比べると随分小さいコップだ。腹を壊すことは無いだろう。


「さて、どうするかな」


 昨晩はシエラの世話で一晩があっという間に過ぎ去ってしまったリチャードにとって、今日が本当の意味でのんびりした夜になった。

 

 シエラを伴ってリビングに向かい、流石に夜は冷えるからとリチャードは暖炉に火を点けると、昼間のようにソファに腰を下ろした。


「眠たくなったら言うんだぞ?」


「うん」


 リチャードは離れて座ったシエラにそういうと、ローテーブルに置きっぱなしだった小説に手を伸ばしてページを捲る。


「それ何?」


「ん? 小説だよ。読んでみるかい?」


「嫌、いい。俺、字は読めないから」


 この世界の識字率は決して低くはない。

 義務教育などは無い世界だが、職に就くには、金を稼ぐには文字数字が必須な為、字は親から子ヘ、子から孫へ代々伝えられてきた。

 時には教会で神父やシスターが、時には冒険者達がクエストとして字を教える事もある。


 そんな世界で字が読めない。

 それはつまり親から何も与えられなかったという証拠でもある。


「よし、シエラ。今日から字の勉強だ。

 私がシエラに文字を教えてあげよう」


「俺が字を読めるようになったら、リチャードは嬉しいか?」


「ああ嬉しいとも」


「じゃあ頑張る」


「良い返事だ。となると……何か良い資料か……本があっただろうか」


 読みかけの小説を置き、部屋の一角に置かれている本棚へと向かったリチャードは何か字を教えるのに役立ちそうな本を探すのだが、何せ本棚に入っているのはリチャードの趣味の物ばかり。


 結局リチャードが選んだ本といえば先程ローテーブルに置いた小説の1巻からの続刊だった。


 それを持って来てシエラの横に座ると、持ってきた小説を教材代わりに使い文字を教えてみるが、子供が直ぐに全ての文字を覚えられるわけもない。


 次第に集中力が切れていくと、シエラは睡魔に襲われたかウトウトし始めた。


「おや、そろそろおネムかな?」


「ん、眠たい」


「分かった。今日はここまでにしよう。おいで、寝室まで送ろう」


 リチャードが立ち上がり手を伸ばすと、シエラはその手を掴んで立ち上がる。


 そして部屋を出ていこうと歩き出した際に、シエラは魔石を使用して灯すランプを置いてある棚に立て掛けられた小さな額縁を見つけた。


 その額縁には絵は飾られておらず、中に文字の書かれた紙が一枚入っている。


「え、す……これなんて読むの?」


「お、ちゃんと読めるようになってきてるな。偉いぞシエラ。これは【Sランク冒険者証明書】と読むのさ…………さあ、今日はもう寝ような」


 Sランク冒険者。それは、冒険者見習いから始まり、CasualカジュアルBetterベターAceエースSuperiorスペリオルExtraエクストラの頭文字からとってCランク、Bランク、Aランク、Sランク、EXランクとランク付けされる冒険者の中でも上から2番目の位。


 見習いは弱い魔物を数人で狩り、Cランクは弱い魔物を単独で倒し、Bランクは強い魔物をパーティで倒し、AランクはBランクが手こずる強い魔物を単独で撃破しうる。


 ではSランクはと言うと? Aランクが倒せないような災害級の脅威をパーティで討伐出来るのがSランク冒険者という存在で、戦時においては一つのパーティで一個師団に並ぶ程の戦力となり得ると言われている。


 では、更に上のEXとは?

 それはいわば所属する国の強さの頂点、他国に対する超の付くド級兵器のような物であり抑止力。

 Sランクが手こずる化け物を単独で撃破しうる人の皮を被った化け物とも呼ばれる存在。

 それがEXランク冒険者、未だこの世界で認定されたのは片手で数えられる程しかおらず、現在では神話の登場人物のような扱いになっている。

 

「結局、私は届かなかったな」


 リチャードはシエラが読んだ額縁を倒して伏せると、手を繋いでシエラと寝室へと向かったリチャードは、ベッドの掛け布団を捲るとシエラをお姫様抱っこで抱えて寝かせた。


「おやすみシエラ。また明日な」


「やだ。リチャードと一緒に寝る……1人は嫌だ。だからお願いリチャード。一緒に寝よ?」


「ソファで眠る予定だったが……そう言われては断れんな。少し狭いが構わないかい?」


「うん。一緒なら狭くても良い」


 リチャードはシエラの隣に寝転び掛け布団を引っ張り寄せ、自分とシエラに掛けると、シエラに昨晩と同じように腹辺りをポンポンと叩く。

 

 直ぐに眠りに落ちたシエラを起こさないように布団から出ようとしたリチャードだったが、そこでリチャードはシエラに寝間着のシャツをギュッと握られている事に気がついた。


「はは、敵わんな。観念するか」


 リチャードは微笑みながらやれやれと言うように肩を竦めると、再びシエラの横に寝転んで目を閉じた。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] いじらしいです。いじらしい正義です。 [一言] 「XX出来たらうれしいか?」誰かには自分も言わせてみたいです。でも誰もいません。生み出せません!
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