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元オタサーの姫、取り巻きのカウンセラーになる

 夜はバー営業をしている喫茶店の片隅で、私は腐れ縁の男友達・広野(ひろの)(ひさし) に昼間からビールを奢られていた。

「それであんたその子と寝たわけ?」

「寝た」

 はぁ。

 私は今日何度目かもわからないため息をついた。

 こいつはいつもそうだ。めんどくさいことになると私に連絡をよこす。今日も「実は女の子からストーカーみたいなことをされているんだけどさぁ」と連絡が来て会うことになった。

「そりゃあそういう女と寝るあんたが悪いでしょ。重たい女を気軽に引っ掛けるんじゃないよ。しかも前聞いた時は別の子と付き合ってなかったっけ」

「いやいやいやあの子とは別れた……あー、別れた事になってるから」

「……ビールおかわり」

「ハイ」

 すいません、と広野が店員を呼び止める。

「まぁだいたい俺が悪いんだけどさ、誰にも言えないからヤマダに聞いてほしいわけよ」

「だいたいっていうか、全部だよ。たまの平日休みの真っ昼間からめんどくさい話を聞かされる身にもなって」

 今日は金曜日だが、有給消化のために休みを入れていた。たまたまシフト勤務の広野と休みが合ったのだ。

「いやー、悪い悪い。ヤマダには話しやすいんだよな。有象無象から三好(みよし)先輩を選んだだけあって信頼度が高い」

「いいけどさー」


 三好先輩とは三好(とおる)……私と広野より一つ年上の、私の夫のことだ。透も広野も私も、大学の研究室が一緒だった。私の名前は、今は三好優香(ゆうか)だけれど、広野は私のことを旧姓の山田(ヤマダ)と呼ぶ。

 情報学部のその研究室は、男オタクばっかりで、女子生徒は私しかいなくて、私は必然的に「姫」だった。

 私の顔の造作はそんなに悪くないと思う。身だしなみにも気をつけていたし、それなりに流行に合わせた服を着ていた。普通の女子大生として過ごしていたつもりだったけれど、いつの間にかひとつ上の先輩や同期からの好意がほぼ全て私に向いていた。

 広野もその中の一人だ。大学時代、広野も私のことが好きだった。


 でも私は誰にもなびかなかった。ちがう、なびけなかった。危うく成り立っている関係を、自分の手で壊すのが怖かったから。


 透は、私にちやほやする男たちをを遠巻きに見ていた。でも私は知っていた。透が私と初めて顔を合わせた時、透が私に一目惚れしていたことを。それでも、他の男達のように私に近づこうとしなかったことを。

 だから私は、私から透に近づいたのだ。


 スマホが震える。メッセージが届いていた。

『ヤマダ今日の夜あいてる? よかったら飲み行かね? ちょっと相談したいことあるんだよ』

 大学の同期の土田(つちだ)康彦(よしひこ)からだった。……こいつもか。


「バカがもうひとり釣れそう。広野、夕方から土田も一緒に飲む?」

「お、マジ? いいね、土田と会うのも久しぶりだなぁ」

 広野は嬉しそうに言う。

「透には広野と会うって言ってるから心配してないと思うけど、一応連絡しておく。飲みすぎないようにしなきゃ」

 

「ほんとさあ、バカな俺らに今でも付き合ってくれるヤマダはいい女だよ」

 私は元「姫」だったかもしれないけれど、そんな風に言ってもらえる今があるのは嬉しい。だからつい、付き合ってしまうのだ。取り巻きだった男たちの、バカな相談に。

「はいはい、ありがと。お勘定よろしくね」

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