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なろうラジオ大賞3

交差点が一つもない街

掲載日:2021/12/10

 この街には交差点がありません。

 大きな丸い道路が一つあるだけ。


 道路沿いには生活するのに必要な施設が全て揃っています。

 学校、病院、スーパーマーケット、娯楽施設など。

 もちろん水道も電気も通っています。

 足りない物なんて一つもない。


 この街から出て行く必要なんてないんです。






「ねぇ……本当に出て行くの?」


 マリアが尋ねる。


「ああ、僕はもう決めたんだ。

 この街を出て自由になる」


 エリックはそう答えて野球帽のつばをいじる。


 僕の目の前には地平線の彼方まで青い草原が続いている。

 たなびく草が風の存在を教えてくれた。


「今度一緒に映画を見ようって言ったのに……」

「ごめんな、その約束は果たせそうにないよ」

「……そっか」


 マリアは寂しそうに俯く。


「じゃぁ、僕は行くから」

「いつでも帰って来てねー!」


 遠くへ去っていくエリックの背中に大声で呼びかけるマリア。

 彼女の心情を思うと、ちょっとだけ苦しくなる。


「行って……しまったか」

「あっ、お父さん」


 マリアの父はそっと娘の肩に手を置いて慰める。


「いつかはこんな日が来ると思っていた。

 男だったら一度は旅をしたくなる……うん?」


 遠くから一台のバスが草原を走って来るのを見つけた。


 フレームがひしゃげて窓が割れている。

 黄色い塗装も剥げてボロボロ。


「すっ、すみません!」


 バスから降りて来た男が救いを求めるような顔で駆け寄ってくる。


「ここが交差点のない街ですか⁉」

「ああ、そうだが?」

「やっ――やったぁ! ついに見つけた!

 おおいっ! みんなぁ! ついたぞ!」


 男が呼びかけると、バスの中からみすぼらしい格好の人々が下りてくる。


「もしかして移住希望者ですか?」

「ええ、そうです……受け入れてもらえますか?」


 懇願するような表情で言う男に、マリアの父は笑顔で右手を差し出す。


「もちろん! 歓迎しますよ!

 ようこそ交差点のない街へ!

 決して変わることのないありふれた日常が、

 アナタたちを待っています!」

「よっ……よかったぁ」


 男は力なくその場に座り込んでしまう。


 バスに乗っていた移住者たちは、どうやらとてもお腹がすいていたようだ。

 僕の中に入って街の皆から歓迎を受けて、沢山ごはんを食べて元気になった。


 そう……僕の中にいれば、決して苦しまなくて済む。


 道路が一本しかない街。

 僕は街に住む皆を全ての嫌なことから解放する。

 疫病も、戦争も、貧困も、差別もない。

 平和で優しい世界。


 僕の中にはそれがある。

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― 新着の感想 ―
[良い点] <読専>なんですが、読後しばらく悩みました・・・・。 結果<大好きな作品>としか書けず(笑) [気になる点] 「交差点が一つもない街」 タイトルを裏切らない内容で御座いました。 [一言…
[良い点] 外から見たら楽園だけれどその実態はいかに。 まさか街目線だとは思いませんでした。 面白かったです。
[良い点] こういうお話大好きです!! 一見、ユートピアのようで実は……な感じがたまりません( *´艸`) バスがどこからやって来たのかとても気になりました〜♪
2021/12/10 19:37 退会済み
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