第7話 出逢い
前回のあらすじ
ベルが従者になった
ベルの案内で森を抜け、一番近くにあった街であるプロキオンの街へとやって来た。
「そう言えば……ベルの元雇い主は何処に住んでるんだ?」
「え〜っとですね……ここから北に丘を二つ越えたところにある、ベガの街ですね。そこの領主を務めています」
ちなみに、黒衣の暗殺者衣装は街中では目立つだろうからと、一応予備で貰った俺が羽織っているのと同種のマントを、ベルに着させていた。
「そうか……もう一つ聞いてもいいか?」
「はい、なんですか?」
「ベル、お前……金は持ってるのか?」
ベルの服を買わなきゃいけないと思ってそう尋ねたけど、彼女はフイッと俺から視線を逸らす。
「………………おい」
「え〜っと、その……私みたいな日陰者は、お金を持つ習慣がないと言いますか、なんと言いますか……」
ベルは気まずそうに、両手の人差し指をくっつけたり離したりしながら苦しい弁明をする。
なんとなく予想はしていたが、想像以上に酷い環境にいたらしい。
だが……あの金の亡者が雇い主なら、さもありなん。
俺は小さく溜め息を吐きつつ、魔法袋の中から財布を取り出す。
「はぁ……まずはベルの服を見繕うのが先か……」
「す……すみませんっ」
ベルは肩を縮こませ、顔を真っ赤にしながら俺の後をついてきた―――。
◇◇◇◇◇
大通りに面した服屋に入り、ベルの服を適当に見繕う。
女物の服に詳しくはなかったから、そのあたりは店員に任せきりにした。
そして十分くらいして、ベルが更衣室の中から俺に声を掛けてくる。
「あの〜、ご主人様。着替え終わりましたけど……」
「ああ、そうか………………って、何だ、その格好は?」
ベルは白いニーハイソックスをガーターベルトで止め、半袖丈で膝上丈のスカートの黒いドレスのような服の上に、フリルのついた白いエプロンを身に付けている。
そして頭には真っ白に輝くホワイトブリムを身に付け――何処からどう見てもメイドの格好だった。
「私の目に狂いはありませんでした!」
店員は輝かんばかりの笑顔を浮かべ、良い仕事をしたとばかりにサムズアップしている。
対してベルは、スカートの裾を押さえ両膝を擦り合わせてもじもじとしている。
「うぅ……足下がスースーします……」
顔を真っ赤にしながら、そう呟いていた―――。
◇◇◇◇◇
結局、メイド服は予備の服として購入し、ベルは執事服を選んだ。
元々中性的な格好をしていたから、執事服姿はとても板についていた。
服屋を後にし、大通りを進んで行く。
人は思いの他多く、何処も活気付いていた。
そんな中を、一台の馬車が走り抜けて行く。
それだけなら何処の街でも見受けられる光景だが、その馬車の前に小さな子供が飛び出してきた。
それに気付いた馬車の御者台に座る御者が手綱を引くが、間に合いそうにもない。
「チッ!」
俺は身体強化魔法を発動させ、馬車の前に躍り出る。
そして子供を抱き抱え、間一髪の所で馬車を避ける。
俺に抱き抱えられた子供は、ポカンとした顔をしていた。
すると、この子供の母親らしき人物が、慌てた様子で俺の下まで駆け寄ってきた。
「あ……助けていただいて、ありがとうございます!」
「礼はいい。今度からは小さな子供からは目を離すなよ」
「はい!」
母親はそう言うと、子供を手を引いて俺の前から立ち去る。
その間際、俺に向かってもう一度お辞儀をしてきた。
それと入れ替わるように、今度はベルが俺の下へと駆け寄ってきた。
「ご主人様、大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫だ」
俺は起き上がりつつ、そう答える。
「大丈夫でしたか!?」
すると今度は、馬車の方から声が掛けられた。
声の出所に目を向けると、馬車から若い女が降りてきたところだった。
その女はウェーブ掛かった金色のロングヘアで、蒼穹のように澄んだ蒼い瞳をしている。
そして明らかに貴族であろう、身形の良い格好―とは言っても、七分丈のブラウスとロングスカートだったが―をしていた。
「ああ、大丈夫だ」
「そうでしたか……危うく、我が領民を亡き者にしてしまうところでした。貴方は我が領民の命の恩人でもあり、わたしの恩人でもあります。助けていただき、誠にありがとうございました」
女はそう言うと、深々と頭を下げてくる。
それよりも、気になることを言っていた。
「領民、だと? もしや……」
「はい。わたしはこの街、プロキオンの街を治める領主である、エンデ・フォン・モンテーロです。以後お見知りおきを」
女―エンデはスカートの裾を軽く摘まみ上げ、優雅にお辞儀をする。
――これが俺とエンデの、最初の出逢いだった―――。
今作のメインヒロインであるエンデの登場です!
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