表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/69

第3話 『魔神』の力

本日三話目!




前回のあらすじ

『魔神』リアに助けられた

 

 それから三日後。

 僕はようやく上体を起こせるくらいにまで快復した。

 まだ歩くこととかは無理だけど、身体をちょっとだけでも動かせるようになったのは良い兆候だ。


 そして今日は、リアに僕がなんで深層にいるのかを聞かれた―――。




 ◇◇◇◇◇




 事の経緯を包み隠さずリアに打ち明ける。

 仲間だと思っていた人物達の所業を語る度に、僕の胸の奥である感情が沸々と湧いてくる。


「……これで全部かな」

「そっか……」


 全て話し終わると、ベッドの脇に置いた椅子に腰掛けていたリアは顔を俯ける。

 最初は畏まった口調で話していたけど、リアが敬語はやめてと言ってきたので、砕けた口調で話すようにしていた。


 そしてリアは突然、僕の手を握ってきた。

 彼女の突然の行動に、僕は驚きを隠せないでいた。


「え? リア?」

「そんな……酷すぎるよ……私利私欲のために仲間を裏切るなんて……」

「リア……」

「エドは今、その仲間達のことをどう思っているの?」

「どう、か……」


 リアがジッと、僕の顔を見つめてくる。

 そんなの、当に決まってる。


「……恨んでるさ。今すぐにでも復讐したいくらいに」

「かつての仲間であっても?」

「そう思っていたのは僕だけだろう。アイツらは僕から全てを奪っていったんだから。そんな奴等を今でも仲間と思うほど、僕もお人好しじゃない」

「でも……復讐するには相手を圧倒するだけの力が必要よ?」

「それは……」


 僕は魔法使いだから、近接戦闘はすごく苦手だ。弱点と言ってもいい。

 そして僕が復讐したいと思っている相手は全員、近接戦闘に長けた者達だった。


 それと厄介なことに、奴等の防具は魔法耐性の高い物で揃えられていた。

 どう見繕っても、僕に勝ちの目は万に一つもない。


 そんなことを思っていると、リアが立ち上がる。


「リア?」

「ちょっと待ってて」


 そう言い残すと、リアは部屋から出て行ってしまった。

 そして五分くらいした後、一本の細長い棒切れを携えたリアが戻ってきた。


「リア、それは?」

「これ? これはね、万能兵装『クライムシン』って言うの」

「万能、兵装……?」


 リアの言葉に、僕は首を傾げる。

 リアの持っている棒切れはお世辞にも、武器には見えない。

 いや……槍のような突きや棍棒のような打撃を繰り出すことは可能だろうけど、『万能』と言うには程遠い。


「まあ見てなって」


 そう思っていると、リアは自身の魔力を『クライムシン』に流す。

 すると……。


 長剣、大剣、槍、大鎌、戦斧、槌、錫杖へと次々と形態を変化させる。


 そして最初の棒切れの状態へと戻して、リアは得意気な顔をしながら僕の方を見る。


「どう? これで分かった?」

「うん……スゴい武器だね」

「これ、エドにあげるよ」

「…………………………うん?」


 大怪我を負い過ぎて耳もおかしくなったのかなぁ?

 今、「あげる」って聞こえた気がするんだけど……。


「リア……もう一度言ってくれる?」

「え? 聞き取れなかった? この『クライムシン』をエドにあげるって言ったんだけど」


 どうやら聞き間違いじゃないようだ。

 でも、分からないこともある。


「なんで……ソレを僕にあげようと思ったの?」

「なんでって、ぼくが持ってても宝の持ち腐れにしかならないからだよ。それなら、誰かに有効活用してもらった方がこの子も嬉しいだろうしね」

「でも、僕は魔法使いだから、武器の扱いは……」

「それは大丈夫。ぼくが教えてあげるから」

「……完全に疑うわけじゃないけど、リアは人にモノを教えられるの?」


 一……いや、二割くらい疑念を抱きつつそう尋ねると、リアは何故か胸を張る。


「当然でしょう? 魔神になる前は学校の先生になろうと思っていたから、教えるのは得意なのよ」

「そうか。なら安心……なのか?」


 リアは得意気にそう言うけど、一抹の不安を払拭出来ないでいた。

 そんなことを思っているとは露知らず、リアは僕に向かって言う。


「だから、その怪我が治ったら、各々の武器の扱い方を教えてあげるよ」

「そっか。でも……骨折もしてるからちゃんと動けるようになるまで、数ヶ月掛かると思うけど……」


 そう言うと、リアはフイッと僕から視線を逸らす。

 リアのリアクションの理由が分からず、僕は彼女に声を掛ける。


「リア?」

「えっと、その……エドの怪我は、あと一月もすれば完治するわよ」

「……それ、おかしくない? だって僕の怪我って結構大きいよ? それがあと一月で完治って……いくらなんでもおかしいでしょう」

「……エドの言ってることはもっともだとぼくも思ってるわ」


 リアはそう言いながら、その場に膝をつく。

 そして両手も床について、頭も床につくくらい下げる―極東で言うところの土下座をする。


「ごめんなさい!」

「えっと……何が?」


 リアの突然の謝罪に、僕は動揺する。

 リアは額を床につけたまま、謝罪の理由を述べる。


「その……エドの怪我を治すためにね、その……ゴニョゴニョ……しちゃったの……」

「え? なんて?」


 リアの説明の一部がよく聞き取れなくて、僕は彼女に聞き返す。

 すると彼女は顔を上げて、今度ははっきりと述べる。


「だから! その……エドにぼくの血を飲ませちゃって、エドを『魔神』にしちゃったの!」

「…………………………は?」


 リアの説明の意味が理解出来ず、僕はすっとんきょうな声を上げる。


 いや、言葉の意味は理解出来る。

 だけど、そうするに至った経緯が全く理解出来なかった。


 するとリアは、悪戯がバレた子供のように目を伏せながら、ぽつぽつと話していく。


「えっと、その……『魔神』が不死に近い特異体質なのは知ってる?」

「まあ、噂程度には……」

「それなら話は早……くはならないわね、別に」


 ならないんかい、と心の中でだけツッコミを入れる間にも、リアは説明を続ける。


「ぼく達『魔神』には、三つの能力が付与されたの。まず一つ目は、全く衰えない不老の肉体。二つ目はエドも知っている通り、不死に近い特異体質……だけど、本質は違うの。本当は、死なない限りどんな状態からでも再生する超回復能力。そして三つ目は、あらゆる魔法の行使が可能な莫大な魔力。この三つの能力が、『魔神』を『魔神』たらしめてる大きな要因よ」


 不老体質と不死に近い特異体質は知っていたけど、莫大な魔力を有することは知らなかった。

 普通なら聞くに堪えない内容だけど、『魔神』である当の本人がそう言うなら事実なのだろう。


「まあ……『魔神』の能力については分かったよ。だけど、それがリアが謝る理由と何の関係が? リアは僕を助けようと思って、良かれと思って自分の血を飲ませてくれたんだろう?」

「そうなんだけど……『魔神』の血って、本人以外に摂取させると拒絶反応を起こして、瞬く間に絶命するの」

「……はい?」


 リアのカミングアウトに、僕は目をしばたかせる。

 するとリアは、再び額を床につける。


「本当にごめんなさい! でも、今にも死にそうだったから、一縷の望みに賭けてぼくの血を飲ませちゃったの! それでエドを『魔神』にしちゃった! 本当に本当にごめんなさい! 怒ってるなら、ぼくの身体をどんな風にしてもいいから!」

「……顔を上げて、リア」


 僕がそう言うと、リアは恐る恐るといった感じで顔を上げる。

 そんな彼女に、僕は努めて笑顔を浮かべながら彼女に言葉を掛ける。


「リアには感謝こそすれ、怒るのは筋違いだよ。リアは良かれと思ってやってくれたんだろう? なら、僕が怒る理由はないかな」

「……本当に怒ってないの?」

「怒ってないよ。それに……この能力チカラは、僕の復讐を叶える上で最高と言っても過言じゃないからね」


 僕は左手で自分の右手首を掴みながら、そう答える。


 ……後でリアに聞いた所、この時の僕は底冷えするほどの冷酷な笑みを浮かべていたらしい。




 そして、数奇な運命の悪戯によって『魔神』の力を得てから、十年の月日が経過した―――。






タイトル回収。




評価、ブックマークをしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ