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ラブレターを偽装した

作者: 関尾遥

これは、サッカー部の仲良し三人組と一人のマネージャーの物語。

 僕の名前は祐司。中学二年生で、部活はサッカー部に入っている。

 

 そんな僕には、春人と庄太という、同じクラスであり同じサッカー部仲間でもある二人の友達がいる。僕ら三人とも、サッカーにおいても、勉強においても、ほぼ差の無いいわば"どんぐりの背比べ”状態だった。よくクラスの中では、「似たもの同士の仲良し集団」と言われていた。


 ところで、サッカー部にはマネージャーが三人入ってくれているのだが、僕はその中でも、同じ学年かつ同じクラスの佳奈美のことが大好きだった。佳奈美の好きなところなら、優しい、笑顔が可愛い、勉強ができる、スタイルがいい・・・・と、他にも言い切れないくらいある。


 佳奈美は部活内でも、クラス内でも人気が高く、彼氏がいるのではないかと噂される程だった。ということもあり、僕は告白もできず、ずっと佳奈美への思いを募らせたまま月日が過ぎ去っていった。


 最近行われた席替えにより佳奈美は春人と隣の席になった為、僕はずっとそれを羨望の眼差しで見つめていた。また、佳奈美は委員長を引き受けているのだが、その相方が庄太なのである。以上のことからも、春人と庄太の二人の方が、部活以外で佳奈美と接する機会が僕より多いことは明らかだった。


 とはいっても、僕と佳奈美には料理を作るという共通の趣味で話が合う為、部活の合間だと一番佳奈美と話をしているのは、間違いなく僕だった。その"お喋りタイム”がお互いにとってすごく楽しいという事もあり、どうしても僕は、両思いの可能性を捨てきれないでいた。

 

 一週間程たったある日の事である。昼休みの時間に僕は春人に体育館裏に呼び出された。


 「一体、何の用だよ。」僕は春人に問いかけた。


 春人はポケットから一枚の封筒を取り出し、こう続けた。


 「いいか、祐司。よく聞いてくれ。実は俺、佳奈美のことが好きで好きでたまらないんだ。」


 「おまえもか!」とつい叫びそうになる僕だったが、慌てて口を押さえた。


 「そ、そうか。それで?」


 僕は心臓の鼓動が速くなるのを感じながらも、声を振り絞って聞いた。すると春人は、持っていた封筒を僕に見せて言った。


 「祐司に頼みがあるんだ。この封筒に入ってるのは、俺が彼女に宛てて書いたラブレターだ。これをおまえに預けるから、おまえから彼女に、『これ、春人からなんだが、受け取ってくれ。』と渡してくれ。頼む!」


 僕は一瞬思考が停止しそうになったが、慌てて春人に聞いた。


 「何故ラブレターなんだ?それに、ラブレターなら、僕を経由せずに、佳奈美の靴箱にでも入れておけばいいじゃないk」


 「ラブレターを書いたのは、直接彼女に告白するのはあまりにも緊張しそうで、俺にはハードルが高いと思ったからなんだ。靴箱に置く形を取らないのは、万一他の誰かに先に見つけられて中身を読まれでもしたら、立ち直れなくなるからだよ。」


 僕が言い切る前に春人が喋り出した。続けて春人は言った。


 「おまえは、これを彼女に渡してくれさえすればいいから。中身は見るなよ、恥ずかしいから。」


 僕は渋々その封筒を受け取った。


 「分かったよ。とりあえずこれは後でタイミングを見計らって渡すから。」

 

 僕がそう言うと、春人は「ありがとう、恩に着る。」と言って僕に頭を下げた。


 春人がその場を離れた後で、僕はいつこの封筒を佳奈美に渡そうか悩んでいた。しかし、すぐに別の考えが浮かんだ。


 わざわざ、恋のライバルであるあいつの言いなりになる必要なんてあるのか・・・?何故僕があいつの為にこんなことをしなくてはならない・・・?


 考えてみれば、いくら友達とはいえ、僕が春人に協力するメリットなんて、これっぽっちもないじゃないか。僕も佳奈美のことが大好きなんだから、もしこれであいつの告白が上手くいったら、僕が立ち直れなくなるに違いない。

 

 そう考えた末、僕はあいつから預かったラブレターを、封筒ごとその場で破り捨てようとしたが、せっかくだから中身を見てしまえ、と思った。


 僕は早速春人から預かった"開けてはならないはずの”ラブレター入り封筒を開けた。その際、ある悪巧みを思いついた僕は、糊付けされていたやつを丁寧に剥がして開けるようにした。封筒の中には一通の手紙が入っており、本文はボールペンで書かれていた。内容はこうだ。


 『佳奈美さんへ

 僕はあなたのことが大大大好きです。笑顔の可愛いあなたに僕は幾度となく癒やされてきました。良かったら僕とお付き合いしませんか。もしOKなら、明日の委員会終わりの15時半丁度に、体育館裏に来てその返事を僕に聞かせて下さい。お願いします。

                                           春人より』


 なるほど、つまりこれで佳奈美が明日体育館裏に来なかった場合は、振られたと捉え彼女のことは諦めるつもりなのか。読み終えた僕は、自分の悪巧みを実行するべく、ラブレターと封筒をポケットにしまい、急いで教室に戻った。そして筆箱から修正テープとボールペンと糊を取り出し、こっそりトイレの個室に移動した。

 

 僕は、このラブレターを書き換えて、自分が書いたことにしてしまおうと思ったのである。


 僕は修正テープとボールペンを使って、"15時半丁度”の部分を"15時40分”に、"春人より”の部分を"祐司より”に書き換えた。そして封筒に入れ直し、丁寧に糊付けをした。筆跡までそっくりなんだから、ばれる心配などこれっぽっちもない。


 僕は昼休みが終わる前に、急いで庄太を探すことにした。書き換えたこのラブレターを、あいつから佳奈美に渡してもらうためである。無事庄太を見つけた僕は封筒を渡し、こう言った。


 「すまん庄太。お願いがある。実は僕、佳奈美のことが好きで好きでたまらないんだ。そこで彼女に告白しようと思ったんだけど、直接彼女に告白するのはあまりにも緊張して、僕にはハードルが高すぎると思ったんだ。だから彼女宛にラブレターを書いたんだが、これをおまえに預けるから、おまえから彼女に、『これ、祐司からなんだが、受け取ってくれ。』と渡してくれないか。靴箱に入れるか悩んだけど、誰かに先に見つかって中身を読まれるのは嫌だし。・・・あ、中身は見ないでくれよ、恥ずかしいから。」


 ついつい早口になってしまったが、春人の時と同じ言い回しを使ったし、納得して受け取ってくれると僕は思った。実際庄太は、少し動揺した表情をしたものの、封筒を受け取ってくれたし。


 「分かった。後でタイミング見計らって渡しとく。」庄太は言った。


 「ありがとう。」僕は頭を下げた。


 そうして昼休みが終わった。明日の委員会後が楽しみである。


 その日の晩僕は、緊張でよく眠れなかった。


 そして翌日。僕は委員会が終わり生徒たちが解散し出したのを確認し、一旦15時半に体育館裏に様子を見に行くことにした。そこには、春人が今にも泣き出しそうな表情で一人佇んでいた。僕は春人に見つからないよう物陰から様子を伺っていた。春人は、佳奈美が全然来る気配がない為、どうやら自分が振られたものだと思い込んでいるらしい。

 

 彼女が15時半にここに来るはずないじゃないか、春人よ。おまえから受け取ったラブレターは、僕の手によって書き換えられたんだから。そう思う僕は彼を哀れみの表情で見つめ続けた。


 春人は5分くらい粘ったが、佳奈美は当然現れなかった。待つのを諦めた春人は、ようやく歩き去っていった。どうやら物陰にいる僕には気づかず行ってしまったらしい。


 僕は物陰から出て、15時40分になるのを待った。佳奈美はきっと来てくれる。そんな根拠のない自信を持っていたのだが、それも空しく、40分を過ぎても、彼女は姿を現さなかった。そうか、僕は振られたのか・・・。そう思った僕は、諦めて帰ることにした。


 さらにその翌日である。朝礼前の時間に僕は庄太に体育館裏に呼び出された。すると、庄太は僕にこう言ったのである。


 「俺、昨日委員会の後、佳奈美に告白して振られたんだ。」


 「え・・・?」驚く僕に対し庄太はこう続けた。


 「実はな、俺も佳奈美のことが大好きだったんだよ。俺は一昨日、おまえからラブレターを預かった時、おまえが佳奈美が好きだということに気づくと同時に、このままじゃ先に告白されてしまう、そう思った。だから俺は、今まで佳奈美に告白することをためらっていた自分から抜けだそう、そう思うことができた。先を越されるのが嫌だったから、ラブレターは彼女には渡さず、一昨日の夕方、帰り道の公園のゴミ箱に封筒ごと捨てちまったよ。そうして俺は勇気を出して昨日彼女に告白したわけだ。」


 「でも、振られたと・・・?」僕は聞いた。


 庄太は答えた。

 

 「ああ。佳奈美が言うには、他に好きな人がいるらしい。それが誰なのかは、聞かなかったがな。・・・まあ、おまえのおかげで佳奈美に思いを伝えれたから良かったよ。ありがとう。」


 そうか、佳奈美が昨日来なかったのは、ラブレターをそもそも読んでないからか。つまり、僕は別に振られたわけじゃないと。なんだか、ほっとした。ラブレターを庄太に捨てられたという怒りよりも、そちらの気持ちの方が完全に勝っていた。庄太は告白したが振られた。僕にはまだチャンスがある。


 僕は昼休みに佳奈美を体育館裏に呼び出して、直接思いを伝えることに決めた。そんな矢先、僕が一人でいる時を狙って、佳奈美が話しかけてきたのである。

 

 「ごめん、話があるの。昼休み、体育館裏に一人で来て。」


 まさか、逆に彼女から呼び出されるとは。僕は謎の期待に胸を膨らませながら、昼休みを待った。


 そして昼休み。約束通り一人で来た僕の前に佳奈美は現れ、ポケットから何かを取り出した。それはなんと、庄太が公園のゴミ箱に捨てていた、ラブレター入り封筒だったのである。しかも、封が切られていた。


 「私、今朝は日直で急いでいて、いつも使う道とは違う道を使っていたの。そしたら、公園の前を通りかかった時に、ゴミ箱の周りにゴミが散らばっていてね。見過ごせなかったから、そのゴミをゴミ箱に入れていたら、この封筒を見つけたの。封筒には、『佳奈美さんへ』なんて書いてあったもんだから、私気になって中身を見ちゃったの。そしたら、中身は私へのラブレターで、祐司くんの名前も入ってたから・・・。ねえ、これって、祐司くんが私に書いたものなの?」


 佳奈美はそう言ってこちらを見てくる。


 「そ、そうだよ。」僕は言った。


 すると、佳奈美は続けて言った。


 「やっぱりそうなんだ。ここに呼び出したのは、告白の返事をするためなの。何故公園のゴミ箱にラブレターが捨てられてたかは気になったけど、これのおかげで祐司くんの気持ちは分かったから。」


 僕はつばを飲んだ。もしかして、庄太から聞いていた、佳奈美の言う"他に好きな人がいる”という話は、あれは僕のことだったんじゃないか・・・?そんな期待をする僕に対し、彼女は頭を下げてこう言ったのである。


 「ご、ごめんなさい!私、あなたとは付き合えません。私、他に好きな人がいるので。」


 「え、それって、誰・・・?」


 振られた瞬間僕は、膝から崩れ落ちそうになるのを我慢し、思わず彼女にそう聞いてしまった。


 佳奈美は頬を赤らめながら答えた。


 「春人くんなの、私の好きな人は。実は私、近々彼に告白しようと思ってて・・・。」


 その瞬間僕には、春人と佳奈美が両思いだったことに対する嫉妬心と、春人の告白を阻止しておいて良かったという安心感が同時に来た。そしてすぐに我に返った。


 もし、佳奈美が春人に告白なんかしたら、振られたと思い込んでいる春人から、僕に疑いの目がくるに違いない。あのときあいつは自分の書いたラブレターを佳奈美に渡してなかったのではないか、という。ばれてたまるかと思った僕は、咄嗟に思いついたことをつい佳奈美に口走った。


 「佳奈美、春人に告白するのはやめた方がいい。なぜなら、あいつには、他に好きな人がいるんだから・・・。」


 すると彼女は「そう・・・、教えてくれてありがとう。彼のことは諦めるわ。」と言って、目には涙を浮かべながら、走り去っていった。


 それから数日、佳奈美は学校に来なくなった。先生によれば体調不良だと言うのだが、恐らく失恋のショックだろうと僕はすぐに気づいた。春人は学校にこそ来ていたが、どうやらこちらも失恋のショックからか、ずっと上の空だった。二人をこうさせた原因は、他でもない僕なんだけれども。


 数日後。佳奈美は登校するようになったが、隣の席の春人とはすごい気まずい雰囲気が漂っていた。まあ、無理もないだろうが。


 その日のサッカー部の練習が終わった直後。僕たちは顧問の先生に招集をかけられた。皆の前には佳奈美が立っていて、彼女はこう言ったのである。


 「このたび私は、受験勉強に本腰を入れる為、マネージャーを辞めさせていただきます。もう顧問の先生には、許可をいただいています。今まで、ありがとうございました。」


 皆ざわついていたが、真面目な彼女のことだからと、納得せざるを得ないといった様子だった。


 だが、僕にはわかる。受験勉強の為というのは建前で、彼女がマネージャーを辞める本当の理由は、自分が振った庄太と僕、そして自分ではなく他の人が好きであるという春人との関わりを少しでも避けようとしたからだと。


 その翌日席替えがまた行われた為、春人と佳奈美の席は離ればなれになった。そのため、佳奈美が話す相手は(僕ら三人の中では)、同じ委員長仲間である庄太だけになっていた。それも、最小限の会話だけにとどめているようだったが。


 その日の昼休み。僕は今度は春人に体育館裏に呼ばれた。春人は言った。


 「俺、どうしても佳奈美のことが諦め切れないんだ・・・。祐司、俺はどうするべきだろう・・・?」


 よりにもよって僕に聞くかと思ったが、僕は春人の肩をたたいてこう言ってやったのである。


 「いいか春人。終わった恋を悔やんでも仕方ない。また、新しい恋でも探せよ!」


 



 



 


 


 

因みに四人共、これ以後中学卒業に至るまで、誰にも告白したりされることはなかった。

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