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絢爛、河童の宴

 地下水脈の果てに実在した河童王国。

 地上から赴いた幻翁げんのおきなの使い、夫羅ふらは豪華な王城「水叡殿すいえいでん」に案内された。

 摂政を務めるというエボノという男に翌日の宴の話を聞かされた夫羅は、案内されるがままに来客用の部屋でぐっすりと眠りに落ちた。


 「おはようございます。夫羅さま。おはようございます」

 眠い目をこすりながら部屋の扉を開けると小奇麗な身なりの役人が立っていた。

 「こちらにお着替えくださいませ。宴はあと一刻ほどで始まります。定時になりましたらまたお迎えに伺います」

 何か用事があればこれを、とベルと手渡し着衣一式を置いていった。茜色に染め上げられた長着に羽織、そして仙台平の袴。

 「これ…なんだかイケてねえな」

 部屋の大きな鏡で自分の姿を見る夫羅。

 「河童の国じゃこんな派手な色目が流行りってことかい」


 ほどなく迎えが来た。

 「参りましょう。二層目が式典の会場になっております…ん、いかがされましたか?」

 案内されながら夫羅は、窓の外に見る河童王国の昼の姿に目を奪われていた。

 「美しい…というか、空気があるっ。昨日は水に満たされていたのに」

 役人は窓の簾をひょいと上げ、外の景色を指差した。

 「驚かれるのも無理はない。王国の東北部は大きな空気田になっていまして…」

 「ああ、なんか昨日訊いたなソウブってやつに」

 頷きながら役人が言う。

 「夜は空気弁を閉じて水を満たし、昼には空気で…」

 夫羅は首をかしげた。

 「昼、って。こんな地下のほら穴みたいな土地に夜も昼も無えだろ」

 そう言うだろうと思った、と言わんばかりの役人。大きく頷きながら微笑んだ。

 「一定の時間が来ると、この広大な洞穴の天井にびっしり生息する発光キノコが光り出します。それを我々は朝と呼ぶのですよ。そしてその刻にあわせて空気弁を一斉に開くのです」

 「へえ、まるで地上の昼みたいに明るいのは発光キノコのお陰、か」

 「繁殖、生育は国が管理しております。空気弁を通じて溶岩の熱気が流れ込みますから、昼間は温度も上がります」

 感心しきりの夫羅、付け加えるように尋ねた。

 「それなら季節はどうやって…?」

 「季節、はて。その言葉は初耳です…」


 昇降室での移動は、その揺れと重力の上下に少しばかり不安な気分になる。

 二層目で降り、大きな扉を三つほど通り抜けると、式典が行われるという大広間に着いた。

 「こ、これはまた…ちくしょう、驚いてばかりじゃねえか、俺」

 夫羅が嘆くように言うのも無理はない。

 大広間は三層構造のアリーナ状、詰め掛けた国民で満席。

 「でかい…それに…」

 地鳴りのような歓声の中を規則正しく河童の兵たちが行進する。色とりどりの旗が掲げられ、河童族の知能と独創性に満ちた風変わりな兵器がズラリと並んでいる。

 「まるで国力を誇示しているようだ…」

 ぽかんと口を開けたままキョロキョロする夫羅。その肩をポン、と叩いたのは摂政エボノ。

 「昨夜はよく眠れましたかな。さあ、もうすぐ式典が始まりますぞ。夫羅どのは貴賓席へどうぞ」

 エボノが指差した先、一段高くなった列には深い緑の縞模様が美しい石造りの長いテーブルが置かれ、独特な前あきローブに身を包んだ初老の河童たちが並んでいた。

 「この国の重鎮たちです。現在の国の繁栄は彼らの尽力の賜物」

 中央の席に夫羅は案内された。


 「なんだかどっちもこっちも豪華で立派、どうも落ち着かねえ…」

 そわそわする夫羅。隣に座った老いた河童が話しかけてきた。

 「この卓は大理石、いいでしょう。でもね、これは地上から取り寄せたものなんです」

 「へ、へえ…」

 とりあえず頷きながら夫羅は老河童をちらりと見やった。鮮やかな若草色のローブのあちこちに宝玉が取り付けてある。見るからに位の高そうな礼服。

 (その割りに冴えねえ顔してやがるな、このジジイ河童)

 老河童は独り言のように続けた。

 「この深い緑と純白のが織り成す縞模様、この美しさは地上の関ヶ原で採れるものに限る。ああ、美しい」

 聞き取りづらい小声。

 夫羅は、面倒だなと思いながらも笑顔で相槌を打った。

 「ええ確かに美しい…しかしこんな大きな石、地上から持ってくるのはさぞ大変だったでしょうな」

 まるで会話に乗ってくれたことが嬉しくてたまらない様子の老河童は、時折咳き込みながら語った。

 「ははは、そう手間はかかりません。網目状に地下水路が張り巡らしてあり、我が王国には潜水船というものがある。これを使えばどんな大きなものも楽に運べる」


 ひとしきり河童の国の自慢話を聞かされた夫羅の前に、これまた作りのよい食器たちが並べられた。

 老河童は、手渡された白い布を膝に乗せながら、夫羅にも同じようにするよう手振りした。

 「さあ、料理がきた。もうすぐ前の舞台では綺麗どころによる歌舞音曲が披露されます。存分に楽しまれるがいい」

 貴賓席には次々に料理が運ばれてきた。西洋風、大陸風、そして河童の国独自の料理。

 萌黄色の縦長の頭巾を被った料理番自らがやってきた。

 「こちらは前菜、櫛水母クシクラゲと各種藻の和え物。汁物には水南瓜ミズカボチャの出汁を使っております。こちらはオニイソメの唐揚げと硝子烏賊ガラスイカの天ぷら、添えてあるクマムシの絞り汁で…」

 「なんだか気色悪いような…」


 しかし一度口に入れたら、それはもう地上では味わえない絶品の美味さ。

 「ちょっと、美味いじゃねえの。これ」

 そして目の前の舞台では、煌びやかな衣装に身を包んだ美しい河童娘たちが、見た事も無い楽器から生まれる優雅な音楽に合わせて官能的な舞踊を披露している。

 すっかり見とれてしまった夫羅。食欲も進む。

 「ああ、こりゃ極楽だ…こんな極楽が海底にあったとは」

 老河童が首を横に振った。

 「いやいや、海底ではなく、地底湖ですよここは。河童は体内塩分の比率からいっても海水中での生存は厳しいですからな」

 「へえ。理屈はわからんが…」

 「この場所も、当初は殺風景なところだったと云います。品種改良で深海魚の淡水耐性獲得や繁殖、水中穀物の栽培に成功したのです。先人に感謝です」

 小難しい話を聞き流しつつ、夫羅は次から次へ供される食事に舌鼓。

 「俺は幻翁に感謝しなきゃな。こんな極楽に連れてきてもらえたなんて。地上の人間でこれを味わったヤツは俺くらいのもんだ」

 それを聞いて老河童は思い出したように指を鳴らした。

 「そういえば随分前に一人、ニンゲンがここにやって来たって話です」

 「へえ、誰だいそいつは」

 「先々代の頃と聞きましたが…ニンゲンたちに虐待されてた河童を助けた者をお連れして接待したことがあったそうです。後に地上でそのことを話して有名になったとか」

 「はて、そんな話は知らねえな」

 「確か、なんとか太朗って名前の釣り人だった、と訊きましたが…」


 話が弾む中、式典は進行する。

 「偉大なる国王、ス=ランタス様に敬礼っ」

 中央の舞台で軍の高官たちが一斉に貴賓席を向いて敬礼した。

 「万歳っ、国王万歳っ」

 万来の拍手の中、ゆっくりと立ち上がって両手を挙げたのは、夫羅の隣の老河童。

 「あんた…あんたが」


 挿絵(By みてみん)


 「ええ、わたしが国王。ランタスですよ、ふふふ。地上からのお客さん、びっくりしましたか」


 つづく

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