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黒く染めろ

 美濃・湯の洞の洞窟は黒河童派の暗殺組織「黒の旅団」のアジトになっていた。

 長良川への毒物撒布を阻止するため乗り込んだ幻翁げんのおきなたちの前に、首領ザヒム=ディ・アクラが立ちはだかる。

 

 機械式連発銃とアクラの高笑いが耳をつんざく中、岩場で身を伏せる幻翁は島二郎に目配せをした。

 「わかりました」

 島二郎は配下の忍、芥子菜からしな組に手を振った。

 「今だっ」

 宗三郎と兆次が大きく振りかぶって投じたのは手投げ式炸裂弾。

 「当たれっ」

 祈りが通じたか、否、彼らの修練の賜物。炸裂弾は見事、二門の機械式連発銃を台座こと吹き飛ばした。

 「うあっ」

 爆発で洞穴内が激しく揺れた。ガラガラと落ちてくる石つぶて。壁面に幾筋もの亀裂。

 「ちっ」

 爆煙をかきわけて近づいてくる一つの影。

 「洞窟内で爆弾とは。いい度胸」

 血走った目で、アクラが睨んでいる。その向こう、崩れた岩盤の隙間から巨大なタンクと機械式ポンプが見えた。立ち上がって島二郎が叫んだ。

 「あった。あれだっ、翁、あれで毒を流しているに違いないっ」

 「ようし。お前たち、行けえっ」

 幻翁も立ち上がって洞穴の奥を指差した。

 

 「翁…お前が幻翁、か」

 ゆっくりと近づき、ニヤリと笑うアクラ。

 「老いぼれめ」

 幻翁は微笑を返した。

 「試してみるかい?」

 

 一瞬、アクラの姿が岩場の影に消えた。

 「ふん?」

 気付いたときには、地を這うように突進したアクラが湾曲刀を抜きざまに幻翁の足元に迫っていた。

 反射的に飛び退いた幻翁、岩場に足をかけて強く蹴り上げてアクラの頭上へ。


挿絵(By みてみん)


 「まだまだ」

 クルリと一回転しながら仕込み杖を抜き、アクラの背中を肩口から真っ直ぐ下に斬り下ろして着地。

 「お前さん。老いぼれ以下、じゃな」

 アクラは一瞬、ガクッと腰を落とした。


 しかしすぐさま立ち上がり、何事もなかったように振り返り、狂気に歪んだ笑みを見せたアクラ。

 「やるな、ジジイ。だが、俺は河童族」

 背中の甲羅に深々とえぐられたような筋。防具でもある甲羅のお陰でアクラは無傷のまま再び幻翁に襲い掛かる。

 「幻翁…黒河童派を見捨てた男、だな」

 低い位置から抜き身で飛び掛りつつ、途中で岩を蹴り上げて飛び跳ねた。

 腰を下ろして待ち構えていた幻翁、思わぬ方向転換に首を上げた。

 「それは違う、共存することを拒んだお前たちが…うっ」

 瓦斯灯の煌々とした光が目を射る。

 光と光の間からアクラは降下した。湾曲した刃が幻翁の脳天に迫る。

 「くっ」

 わずかな風圧を感じてギリギリで身を反らした幻翁。切れた毛髪がふわりと漂った。

 間をおかずに突進してくるアクラ。

 「偶然とはいえ上手く避けたな、いつまでもそうはいかんぞ」

 まだ目が馴れない幻翁の足元を刈るように、横一文字に振られた湾曲刀。幻翁が飛び上がってかわすとアクラは左手で懐から拳銃を抜き、撃ち放った。

 「さっさと死ねジジイ」

 身をよじってやり過ごす。反撃を試みる幻翁の目の前でアクラは刀を持つ左手を離した。すかさずもう一丁の拳銃を取り出しざまに撃った。

 「二丁拳銃とは」

 驚く幻翁の脇腹を銃弾が通り過ぎた。

 「ぐうっ」

 鮮血が散る。致命傷ではないものの、痛みにうずくまる。


 近づくアクラ。刀を拾い上げ、勝ち誇ったように見下ろす。

 「年寄りの冷や水、と言うじゃないか、あ?」

 ギラリ、と幻翁の目が光った。

 「ふぬっ」

 仕込み杖、一閃。アクラは飛び上がって避ける。その着地ざま、幻翁の足払いがアクラを転がした。

 「はっ」

 続いて突き出す仕込み杖の刃、アクラは背を向けて防御する。刃先はカツンと甲羅に当たった。

 幻翁の手がうっすらと光った。波動が杖に流れ込み、光を放ってその先端へ。

 「亀の甲より年の功、と言うじゃないか。いや、河童の甲より年の功、か」

 アクラの甲羅は甲高い音をたてながらバラバラに割れた。

 壊れた甲羅を脱ぎ捨てるアクラ。

 「ジジイ、小賢しいな」

 「ジジイってのは小賢しいもんだと決まっておる」

 幻翁が仕込み杖を逆手にもって眼前に構えた。アクラも湾曲刀を下段に構える。

 「かえって身軽になったってもんよ」


  二人同時に飛び出した。

 互いの正面で、仕込み杖と湾曲刀がぶつかり合う。力比べ、火花が散る。

 幻翁が刃の向きを変えてアクラの力をやり過ごしながらその足元にもぐりこむ。

 「ふぬっ」

 下から突き上げる。アクラは飛び上がり一回転、岩場を蹴って別の角度から降下。

 幻翁も飛び上がり、空中で二者の刃が再び激しく火花を散らす。

 「やるな、ジジイ」

 「やるじゃない、河童」

 ぶつかっては弾け飛び、またぶつかりあう二人。


 「翁っ、やりましたっ。毒の樽と汲み出し装置を全て破壊しました」

 洞穴の奥から夫羅の声が聞こえた。

 「よしっ、よくやった」

 幻翁が夫羅に手を振る。

 「さあ、観念しろ…」

 その隙に、アクラはゲベール銃を取り出し、その銃口を幻翁に向けていた。

 「観念するのはお前だ、ジジイ」

 「いいや、もうお前の企みは阻止されたんだ。争うのは無駄だ」

 アクラは首を横に振る。

 「我々の戦いに終わりは無い、聖戦は勝つまで行われる」

 引き金を引く指に力がこもる。

 「解らぬヤツめ…」

 幻翁は咄嗟に杖を投げつけた。光の波動の糸を引くように、真っ直ぐ進んだ杖の先は寸分違わず銃口に突き刺さった。

 「ぐはあっ」

 引き金を引いたアクラの胸元で銃が爆発した。右胸から肩口を吹き飛ばされてどす黒い血が噴き出すように流れ出る。

 「うう、うう…」

 それでもなお、よろめきながらもアクラは刀を振り上げて幻翁に突進した。


 「いい加減、負けを認めよ」

 幻翁が手刀でアクラの湾曲刀を振り落としたとき、アクラは抱きついた。

 「な、なんだっ」

 「言ったろ、聖戦に終わりは無い、と」

 アクラの両手には爆裂弾がしっかりと握られていた。

 青ざめる幻翁。

 「自爆かっ」

 「我々は何も恐れない。そして、俺が死んでもまだ次がある」

 幻翁はアクラを突き放した。だが爆裂弾の安全棒はすでに引き抜かれていた。

 「洞窟そのものが崩れ落ちるぞっ」

 「ふっ、どうせこの世界は全て壊れる運命にあるんだ、すぐに、な…」

 不敵に笑うアクラの手の中で爆裂弾が着火した。

 洞窟内は激しい光に包まれた。カッという眩い光。同時に激しい熱気が洞穴内に広がる。

 「はっ」

 幻翁が、同時に両手をかざした。

 「はあっ」

 爆発を包みこむように光の波動。ビリビリと稲妻を発しながら爆発のエネルギーを波動の球のなかに押さえ込む。

 「うう、うううっ」

 地鳴りのような轟音は波動の光の中で次第に遠のいていった。

 「ふうっ」

 やがて光も小さくなってゆき、真っ黒に焦げたアクラの亡骸さえも黒煙を上げながら融解した。


 「翁っ、大丈夫ですかっ」

 無事に毒物流入の装置を破壊した島二郎と夫羅、芥子菜組が駆けつけた。

 「ああ、大丈夫じゃ。だがアクラが言った『まだ次がある』という言葉、気になるな…」

 「ええ、そしてこれを見てください」

 島二郎が指差したのは、アクラの手下の衛兵が着ていた服。

 「あの紋章は…」

 「確かに、河童王国のものだ…」

 夫羅が首を傾げた。

 「ん、てことは…あの河童の国が、黒の旅団を手引きした、と。つまりあの王子が、暗黒の側に寝返ったってことかい?」

 「断定は出来ぬが…調べる必要がある。ここに連なる水脈を逆に辿っていけば…」

 突如、岩盤がぐらぐらと揺らぎ始めた。近づいてくる地鳴りのような低周波。

 「さっきの衝撃で岩盤に亀裂が入ったんだ。ここはもうすぐ崩れ落ちるぞ、早くっ」


 一行が急いで脱出して間もなく、激しい地震とともに洞窟は崩落した。

 もはや手がかりは残されていない。

 幻翁は険しい表情で呟いた。

 「一度、河童の国を訪れてみる必要があるようじゃな」


 つづく

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