第5話「それはお前らに野球の才能が無いから」
前回までのあらすじ―――――
ついに開幕したスーパーコメット夏期リーグ。
しかし、その相手はよりにもよってリーグ総合優勝4回の強豪、大曜大学。
試合が始まると、1回から大曜大のエース・金井と銘央大のエース・我妻の奪三振の取り合いに。
銘央大はデッドボールで出塁するも、金井のストレートには手も足も出ず。
その裏の大曜大の攻撃。
4番・青崎が、我妻のストレートをスタンドに放り込んで先制。
試合はまだ序盤。リーグ最弱の銘央大は、強豪・大曜大相手にどこまでやれるのか――――――
――――――――――
1-0。
あの投手から2点を取ると考えると、逆転はかなり難しい。
俺を含む銘央大学投手陣が更に失点する可能性もあるので尚更だろう。
そんな俺は、ホームランを浴びた後の三人を三振で抑える。
試合は2回が終わり、1-0で大曜大学がリード。
3回表の攻撃に入る際、ベンチではマネージャーが俺に声を掛けてきた。
もともと3年がいたところに今年1年が入ったらしく、現在では2人いるという事になる。
ベンチから声を掛けてきたのは、今年で4年になる方だ。
「おつかれー、ええピッチングやったと思うで!」
そのマネージャーの喋り方は、少し変な関西弁。
あと、肌は少し黒く、髪型は茶色の肩までの長さのストレート。
赤いメガネを掛けていて、髪には黄色い土星のようなデザインのヘアピン。
顔と身体も、銘央大で見てきた女子の中では十分いい部類に入るだろう。
「あ、ああ」
ホームランを浴びた事を含めてそう言っているのか。
まあ、ここまでのアウトが全て三振という事を考えると分からなくもないのだが……
「すまん、言い忘れとったわ! 私の名前は垣谷角華! よろしく頼むやで!」
「すまない、標準語で言ってくれないか?」
自己紹介が遅れた垣谷。しかし、我妻は冷たい表情で返す。
「は? お前、何抜かしとんや?」
垣谷の態度を大きく変えてしまったようだ。
とにかく、俺の打順が回って来そうなのでそろそろベンチから出たいのだが……
「ところで、用事は……」
「んなもん知るかアホ! 関西弁で喋れや、カスが!」
先程行った事を返された。
結局、ネクストバッターズサークルに立つ頃には8番の中本は三振で抑えられ、素振りも出来ずにバッターボックスに立つ事に。
ボックスに足を踏み入れると、マウンドに立つ金井から強い威圧を感じる。
その金井の第1球は―――――
真ん中へのストレートだった。
しかし、金井からの強い威圧感とストレートの球速もあり、バットを振るタイミングが遅れる。
これで1ストライク。
金井の第2球はまたしても真ん中へのストレート。
(……これは!)
俺のスイングは、金井のストレートを捉えた。
「カンッ」というバットとボールが当たる音が鳴る。
打球は金井の頭上を越え、二遊間からセンターへ。
その間に、俺が一塁ベースを踏む。
これで銘央大は始めてのヒットを記録。
しかし、その後のバッターは金井の「真ん中のストレート」を打てず。
この回も、アウトは全て三振だった。
その裏の大曜大の攻撃も、三者凡退に終わった。
金井が銘央打線を封じれば、俺も大曜打線を封じる。
だが、援護も無い上に内野ゴロでも安心できないチームメイトでは、1点差を維持できるはずもなく―――――
「ゲームセット!」
審判の掛け声と共に、試合が終わった。
試合は2-0で、大曜大が勝利。
俺は最後まで投げきって16奪三振の被安打6、2失点1被本塁打という成績だった。
「流石、強豪というだけの事はあるな……」
「お前らが弱すぎなんだよ、バーカ!」
俺がそう言うと、金井にバカにされた。
「いや、今回のは今までで一番点差が少ないんちゃうか? 去年なんかボッコボコにされてたで」
そこに垣谷が入ってきた。
「そうなのか?」
俺も、垣谷の変な関西弁の喋りには少し慣れてきた。
「前に監督から聞いとったし知っとると思うんやけど、ここの野球部はめちゃくちゃ弱いねん。 私がマネージャーなってからも、37-0とか何回も見てきたからな。 今回のは大分マシな方やと思うで」
「弱いという事は知っていたが、まさかそれほどとは……」
「そら、除外の可能性やって出てくるわな。 あんたが先発しとらんかったら、もっと酷い事になってたやろなぁ」
開幕戦は2-0で負けた。
しかし、銘央大野球部はこの負けから様々な事を学んだ。
春期と合わせて19連敗となったが、夏期リーグは始まったばかり。
果たして、リーグ除外を避けられるのか―――――