プロローグ
今年も皇凰球場で行われた、夏の高校野球全国大会決勝戦。
その組み合わせは、46年ぶり2回目の出場となった幸鳥代表、蜻蛉学院大学第三高校と、3年連続19回目の出場となった迷羊代表、共社第一高校。
試合は9回裏、共社第一高校の攻撃。3-0で、蜻蛉学院大三高がリードしている。
フォアボール等もあり、2アウト満塁。
本塁打を打たれるとサヨナラ負けとなる気を抜けない状況で、バッターは4番、盾野。
プレッシャーからか、制球が定まらない。
そして2ストライク3ボール、フルカウントとなった。
蜻蛉学大三のエース、我妻の第6球目。
「おらああああああ!!」
我妻が大きな声と共に投げた球は、右の外角高めに。
(これは……ボールだ!)
ボール球かと思いきや、バッターの少し前に来たところでガクンと下に落ち、キャッチャーミットへ。
(ま、まさか!?)
盾野はバットを大きく振るも、大きな変化のフォークボールには掠りもせず。
キャッチャーミットには、ズバーン、という音を立ててボールが入る。
「ストライイイク!バッターアウト、ゲームセット!」
審判の判定はストライク。
この瞬間、蜻蛉学院大学第三高校の全国制覇が決まった。
スタンドからは、大きな歓声が響いてくる。
我妻以外の蜻蛉学院大付の選手達が、マウンドに駆け込む。
駆け込んできた選手達は、自分の右手を高く上げ、人差し指を空に向かって立てた。
その後、校歌斉唱や閉会式が行われた。
そして――――――
10月、我妻は蜻蛉学院大三高の校舎にいた。
「あの、我妻さん?」
声を掛けてきたのは、野球部のマネージャーの夏谷。
「なんだ、夏谷?」
「今日でプロ志望届の提出が締め切りになるんですが、我妻さんは提出しましたか?」
志望届について聞いてきた。
「出すつもりは無いな」
我妻はすぐにこう言葉を返す。
「えっ……?」
困惑する夏谷。
「大学4年になったら、考えようと思っている」
「また4年後、という事ですか?」
「そうだ。自分の能力を考えると、高卒では早すぎると思ってな」
我妻は、あえて大卒としてのプロデビューを目指そうという。
「は、はあ……。ところで、大学に向けての勉強は……」
夏谷が話を変え、学業について聞いてくる。
「既にやっている。スポーツ推薦という考えもあるがな」
そう言って我妻は、夏谷から離れる様に廊下を歩く。