表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/17

on Seven days Ft./continuum sisters.

 明日から夏休みがやってくる。

 僕たちは終業式をおえて家に帰ってきた。

「――いいですか、二人とも。この夏、まずはお兄ちゃんを分割します」

「げほっ!?」

 帰りついて一息つくなり、未来妹から物騒な発言がとびだした。麦茶が大切な器官に入ってむせた。鼻水がでた。

「ぶ、分割って……」

 側にいた金髪妹が身をひいている。平行妹は無表情でこくん。

「最終的にはわたしのものですが。話だけなら聞いてやりましょう」

「お、おにいを分割する作業は誰がやるん? ウチ、お肉食べれんのはちょっと」

「何を言ってるんですか、物理的な意味での分割のはずないでしょう」

「あ、そうなんや」

「そうなんですか。生殖に必要な部分を優先的に頂こうと考えていたのですが」

 夏とはいえ、昼間から胆が冷えるようなホラー話はやめてほしい。

 冗談でもやめてほしい。……冗談だよね?

 とりあえず話を聞くために飲み物を運び、お菓子を用意して、扇風機を回して、近所のスーパーの特売チラシを用意して席につく。夕飯何にしよう。

「――それでは第一回。お兄ちゃんのスケジュール分割会議をはじめます」

「あの、議長」

「なんですか、お兄ちゃん」

「夏休みの予定は一応、僕なりに考えているのだけど」

「それではまずはこちらをご覧ください」

 ものすごい勢いでスルーされた。

「月曜から土曜日までの間にそれぞれ二日ずつ、優先的にお兄ちゃんを独占して良いものとします。そして日曜日は共有期間として四人で、」

「あの、議長」

「なんですか、お兄ちゃん」

「そこはせめて僕の休暇というか、安息日にして欲しいかなと、」

「それでは曜日毎の担当を割り振りましょう」

 僕は空気に徹することにした。今日も空が青かった。

 ミーン、ミーン、ってたくさんの蝉の声が聞こえてくる。昔からの風情だなぁとは思うけど、蝉って鳴いた翌日には力尽きてるという話だよね。


 最初は僕がまだ八歳。小学校二年生にあがった夏だった。

 小学校を卒業する頃まで毎年、夏休みに〝ループする日〟に合わせて、妹と二人で映画館に出かけた。たくさんの映画を見た。

 夏休みだったから、平日に町の中心部を小さな子供二人で歩いていても、特に問題はなかった。手を繋いで歩いていれば「仲の良い兄妹だなぁ」という視線を向けてくれるのがほとんどだった。

 おかげで『夏休みの宿題』に関しても、手早く片付ける癖がついていた。それはもちろん、何度もループする日に『楽しくないこと』は極力排除したいと思っていたからだ。

 そういうわけで八月の上旬から中旬、一年でもっとも暑い時期に『ループする予感』を得た僕たちは、すごくわくわくした。朝起きると二人でラジオ体操に行って帰り、朝ごはんを食べたあと、それぞれの貯金箱を持ちよって相談した。

「子ども二人で、二せん円でしょ。それから、こっちがおやつのぶんでしょ」

「おやつの代金考えないとね。帰りのバスが歩きになるよ」

「えー、ウチ、おかしたべたい! ジュースものみたいん!」

「じゃあ、そっちは僕はたてかえるから」

 映画間のチラシを広げて「〝今日は〟どれ見る?」って相談した。

 ――夏休みに数ある恒例行事の中で。

 二人でバスに乗って、街に行って、映画を見る。それから帰りにアイスをひとつ買う。それが当時小学生だった僕と妹の、ありふれた約束事のひとつだった。


「ねぇ、ねぇ、お、おにい、おにいちゃ、」

「うん?」

 妹の手がふらふら泳いでた。

 市バスの段から降りて振り返ると、カットソーのトップスにショートデニムを履いた妹も降りてくる。手にあるハンドバッグも小さくて、ここ最近で見慣れたラフなファッションだったけど、染めた金髪の上には、リボンのついた麦わら帽子――ストローハットが乗っている。

「やっぱし変かなぁ。このかっこでコレはないんかなぁ」

 降りたあと、唾のやや広い帽子を脱いでリボンに触れる。暑い太陽の日差しの下で、僕らはひとまず影のほうに向かった。

「あんね、お、おに、おにいと、二人で映画いくん久々やん?」

「久しぶりだね」

「せ、せやからね。こういう帽子、懐かしいかなぁって」

「うん。僕的には被ってくれてると嬉しいな」

「ふゅ!?」

 妹の口からちょっと面白い声がでた。円盤型のレンズ雲に透いた太陽が、その表情を綺麗に照らしてる。

「……じゃあ、被っても、ええ?」

「ええよ。よく似合うてる」

「ん」

 妹が帽子の縁を両手で掴む。頭に載せる。

「手も繋いで、ええですか?」

「どうぞ」

 手を差し伸べる。僕たちの指先が綺麗にそろう。

 ほんの少し力を入れて繋ぐと、なんだかとても懐かしい気持ちになった。

「行こうか」

「うん!」

 僕たちは何年かぶりに、二人並んで映画館に向かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ