force dimensional Stream Function.
未来からやってきた妹は〝キス以上〟のことはできないらしい。
なにか『R-18』行動禁止という制約を未来の人たちから与えられたらしい。
例の「特定の状況下での近親婚可」と「少子化による重婚可」の制度ができるのはこれから五年後らしいけども、後者の「重婚可」に関してはいくつかの誓約があるらしい。
らしいらしい、と連呼しておいてアレだけど、なにせ根拠は未来の妹なので勘弁してもらうとして。
『重婚』が可能なのは男性側のみであって、上限も二人までと決まっている。そして最後の条件によれば「届け」を役所に提出する際には、その三人で『重婚専用』の書類を提出しなければいけないという事だった。
つまり『重婚制度』は〝これから〟の世代を対象にしたもので。その前年までに結婚していた二人が、改めてもう一人の女性を連れてきて『重婚』しようと思えば、一度『離縁』の手続きをした後に、改めて役所に提出する必要がある。
五年後の僕が『将来の嫁』と結婚する時は、通常の届けを提出した。
ループ因子持ち同士による『近親婚』が認められたのは、さらにその一年後で、未来妹は僕と奥さんに離縁を迫ったけれど、どっちも首を縦に振ってくれずに時間ばかりが過ぎていた(そりゃそうだろう)。
だけどその四年後、試作型の〝ループ因子を用いたタイムトラベル技術〟を用いて、未来妹的には「お兄ちゃんと不仲になり始めた時代」まで巻き戻ってきたそうな。
「――わたしの目標は、二つの法律が認められる六年後まで、お兄ちゃんと〝らぶらぶな状況〟で進行していくことですっ!」
「せ、せやったら、ウチも……ら、らぶらぶ……」
金髪妹がまっかになって俯いた。
未来妹が言うには、タイムトラベルに成功して、自分の姿が十六当時に戻っていた時、てっきりもう一人の自分は消えているかもしれないと思ったそうだ。
けれどそれは〝ループ因子〟の特性が打ち消した。
「――『重複を認める』というルールが発動して、私たちはどちらも消えることなく、この世界に並列化できたのかもしれません」
「ウチからしたら、迷惑な話なんやけど」
「お黙りなさい。私がここにいなければ、貴女はお兄ちゃんとのらぶらぶ計画に乗り遅れて、余所の女に寝取られてしまうんですよ?」
「ら、らぶらぶ……」
金髪妹が赤面して俯いた。頭から湯気が出ている。
「私が〝黒髪〟であるのも、そういう〝可能性が存在した〟という『過去』を取得して『辻褄を合わせた結果』なのかもしれないです」
「すごい適当だね。僕はその程度の認識で過去に戻るとか怖くてできないよ」
「わたしも詳しいところまでは知りませんっ! 過去か未来にいける確率は五分五分だとも言われましたが、お兄ちゃんへの愛でなんとかなりました!」
「君、今も昔もフィーリング一直線で生きてるんだね」
僕より頭良いのに。もったいない。
「つまり、ウチらは今、遺伝子データと〝ループ因子レベル〟での存在が一致されて、この時間上におるんやね?」
「そういうことですね」
「せやけど、か、仮に……本当に仮定の話やけどっ! 今ここにいるおにいと〝ウチら二人〟が重婚する場合ってどうするん?」
「おそらくその辺りの辻褄合わせとしても、電子データ上に〝同じ名前の戸籍が二人分生成しているはずですよ」
めちゃくちゃだろう、いくらなんでも。
――と思って役所に問い合わせると(休日は自動応答AIが対応をしてくれる、平日より早いと評判)、たしかに戸籍情報を記憶した『DNAⅡ』認証サーバーに、本来は重複が禁止されている二人分の『妹』が登録されていた。
「やはりです。これで私たちは六年後、お兄ちゃんと結婚できます。キスの桁数が四桁にも達してない身の程知らずの野良猫に、お兄ちゃんを奪われることもありませんね!」
「でもさ、実際コレを提出するといろいろ問題が起きそうっていうか起きるよね」
「まぁ、なんとかなりますよ」
「せやね。実際あるんやし、なんとかなりそうやねぇ」
「……」
その認識で生きる女の強さと勢いが、僕はひたすら怖かった。
世界の空はなに一つ変わらず推移する。瞬く夜空の向こうには相変わらず、月と星が輝いていたし、手前には無色透明の〝円盤型レンズ雲〟の輪郭もおぼろげに浮いている。
ただ、夕飯の買い物に出かけた時に、しっかり腕を組んで歩いてくる未来妹と、いつもは「側を歩かないでよ」と怒る金髪妹がやっぱり左隣について歩き、周りから突き刺さる視線がすごく痛かった。贔屓目に見なくても美人なんだから尚更だ。
それで夕飯を食べたあとは、まぁいつもの流れで風呂に入った。
久しぶりに一番湯の権利を頂き、身体を洗ってのんびり湯船に浸かっていると、二人の妹が平然と入ってきた。
「お兄ちゃん、お背中お流ししますね」
「こ、こっち見んといてっ」
「あの……〝R-18規定うんぬんの話〟は何処へ?]
「水着着用ですから♪」
「僕は全裸ですけど?」
「権限が適応されるのは〝こちらから攻める場合〟ですので。それじゃあお隣、失礼しますね」
「へ、変態っ! おにいの変態っ!」
「といいながらなんで入ってくるんだよっ!?」
っていうか、水着の布地が少ない。すごく少ない。ちゃぽん、と湯船の音がふたつ重なる音と同時に、こっちは前を隠して逃げだした。
翌日の朝も、目が覚めたら二人の妹が同じベッドで寝てた。
弁明するならば「鍵はかけました、でも無意味でした」。