第01話 ソフトはだいたい2万円
朝、煩い目覚ましという名の妹に起こされて、寝間着から制服に着替える。寝ぼけ眼のまま階段をゆっくりと歩いて一階に降りる。
制服が濡れないよう器用に洗顔をしてから、妙に豪華な朝食を食べる。そして、登校時間ぎりぎりまでゲームをする。朝のゲーム、これを俺は日課としている。
ゲームをしたり、漫画やラノベを読んだり、アニメを見たり、所謂、オタク文化というものを俺はこよなく愛している。
いつからだろうか。多分、小学校低学年くらいの頃からだった気がする。知り合いの家で、銃で敵を倒すゲームをやらせてもらって、子供ながら妙に感動して、それから嵌ってしまったのだ。両親が重度のゲーマーだったから、家にゲームがたくさん置いてあったのも俺がゲームにのめり込んでいった理由の一つなのだろう。
最初こそFPSのジャンルばかり遊んでいたが、そのうちゲーム全般をやるようになり、次第には漫画、小説、アニメへと手をだしていったんだったかな。高校三年生となった今でも勉強は必要最小限で、部活動等にも入らず自由に遊べる時間の確保にやっきになって、散々遊んできた。
そんなゲーム好きな俺が、約二年程待ち続けているゲームソフトが、今日、発売される。ゲームジャンルはロールプレイング。史上初のVirtual RealityでのRole Playing Gameだ。
Virtual Reality Gameとは、まるで現実世界のような仮想空間内で遊ぶことができるゲームの総称で、最先端技術を使い倒した遊具のひとつである。
今まで、格闘ゲームとFPSのみでしか市場を展開していなかったVRゲーム。
一作品のソフトを作るために世界中の数々のゲーム会社が協力し合うような環境は、今まではライバル関係であった会社ですら、この新市場の発展のために協力するほどだった。
VRゲームが発売されはじめてから、今年で12年目。一年目は格ゲーが二本、FPSが一本しか発売されず、この12年間で発売したVRソフトの総本数はたったの八本。
主に一作品ずつのアップデートが繰り返され、月々にそれなりのプレイ料金。追加アイテムの課金。それが世界規模で行なわれてやっと利益が出る。VRゲームとはそんなシビアなジャンルのゲームなのだ。
だが、世のゲーマー達には異様な支持を持たれている。それは主に20〜40代。子供の頃、実際にゲームの世界に入って遊んでみたいと夢見ていたような世代に特に人気がある。
そういうわけか、ハードも高いしソフトも高い。プレイ料金だって月々5000円を優に超えるし、追加アイテムも当然高い。それでも、現環境で世界中の何千万もの人々がVRゲームを楽しんでいた。
VRの格闘ゲームは、ゲーム世界で自らプレイキャラとなり、実際に拳と拳で殴り合う……というか、戦い合うことができる。
脳内でコンボを思い浮かべるだけでも想像通りに体が動いてくれるので、初心者でも安心。そこに自らのオリジナルな動きも組み込んだりと、無数の立ち回り方が存在している。故に自由度が高いので相対的に難易度の方も高くなっている。極めようと思うと大変なゲームジャンルだ。
FPSは俺が最も得意なジャンルのゲームだ。
銃の重さ、視野の狭さ、地形による移動のし難さ、シビアな体力ゲージ、様々な要素にリアルを組み込んだ最新のゲームは元々軍の訓練等に開発された。そのせいかFPSのゲームはリアル過ぎる。
リアル過ぎるのだが……そのリアル差に世のゲーマーは感動した。プレイの難しさにストレスを感じるのでは? と、当初は思われていたらしいが、一回プレイすればわかる。そんなの気にならない程の面白さなのだ。むしろプレイの難しさが癖になる程である。
俺はVR機器『ミュートラル』を使ってVRゲームをプレイしている。これは、母さんが買ったものだ。。
両親共にゲームが大好きだ。廃人と言ってもいい。俺がミュートラルを外している時は、母さんがずっとプレイしてる。二つあるミュートラルは、基本的に俺と、家で仕事ができて何時も家にいる父さんとで、使ってしまっているから。この赤色のミュートラルは、学校に行かなきゃいけない俺と、家事をしなきゃいけない母さんとで共有している。
俺がはまっているVRソフトは、通称DOCと呼ばれているゲームソフトだ。
DOCでなら、俺はどんな難易度の高いステージでも、廃人のような対戦相手とでも十分渡り合える。そのくらいやり込んでいた。
父さんよりも、母さんよりも、妹よりも、家族でなら俺が一番強い。というか、世界ランキングでも上位に入っている。去年の総合ランキングで28位だ。
さて、そんなVRゲームで初めて発売されるファンタジー物のRPG。ゴッドウォーオンライン。
プレイヤーは神々の先兵となって、数多くの神様陣営にそれぞれ所属し、ファンタジーな化け物連中と戦う……そんなゲームらしい。
ゴッドウォーオンラインの注目すべき点は、一社が独自にソフトを作りあげたというこの一点に尽きる。
平均十数社という数多くの会社の合作として、一作品のソフトを何年もかけて作り上げるようなVRソフトを、しかもRPGという新ジャンルのソフトを、たった一社で独自に作り上げたというこの一点が、世界を騒がせた。ああ、世界と言ってもゲーム業界のって意味でだけど。ネットニュースとかでも流れてる。
βテスト時代のプレイ動画が数百、数千と動画投稿サイトに溢れている今、どうせ完成度低いんだろといったような意見は既に一掃された。
自らキャラクターを動かしてゲームをプレイするような環境は今までのVRゲームと一緒だが、現実的にあり得ない敵に対して剣や魔法で戦いを挑むその戦闘は……すごい。
ファンタジー世界のゲームを一度でもやった事がある人なら、皆がやってみたいと思えるような、そんなゲームとなっている。
人や兵器と戦うのもいいが、ドラゴンなんかの空想上の生物と戦えるそのゲームを、俺もやってみたいと思っていた。想像してみれくれよ。あんな化け物と、剣と魔法を駆使して戦うんだぜ? 燃えないわけが無いだろ。
製作発表から二年、βテストから約一年の今日、とうとう発売する。
しかも結構安い。19,800円だ。中学生でもお年玉やお小遣い等で頑張れば十分買える範囲である。
VRゲームのハード機器であるミュートラル本体が78,000円なので、約十万円あればソフトと本体の両方を買えることになり、これのためにバイトしてハードと一緒に買うぜ!って奴も多い。俺の幼馴染も、バイトして金を貯めていた。絶対買うぜと言っていた。
さて、やっていたゲーム……DOCを終了する。今日も勝つことができた。
俺の戦闘スタイル上、少しでも油断するとすぐ死んでしまう。死ぬことは、多い時には本当に多いんだが、無事、今日も一度も死ぬことなく数多くの敵プレイヤーを殺すことができた。
47キル0デス。評価はA++。総合点に520点加算。これでまた一歩、27位へ近づくことができたはず。
■■■
用意していた荷物を持ち、いってきますと登校を始める。
正直、ゲームショップの前で列に並んで、開店を待ってまで速攻で買いたいのだが、既にソフトの予約をしていて今日の午前中には家に届くよう指定してあるので、素直に学校に行くことにする。でも、この帰ればソフトが家にあるという感覚はやばい。そわそわする。
本音を言えばさぼりたい。でも、今日テストだし。これをサボると大学の指定校推薦を狙っている俺としては結構辛いんだよな。ちょっと残念。
徒歩でゆっくりと通学していると、後ろからタッタッタっと走る音が聞こえてきた。毎日のことなので、足音でなんとなくわかる。俺の姿を見かけて、それで走ってくるパターン。多分、幼馴染のあいつだろうな。
「よっ、幹也。おはよう」
「ああ、おはよう明日香」
予想通り、幼馴染の如月明日香だった。
女みたいな名前だが、こいつの性別は男だ。長身で、容姿がかなり整っていて、髪を明色に染めているその姿はなんというか、リア充感が半端ないのだが俺と同類のオタクだ。
今は彼女がいないのでリアルが充実してないぞと本人は主張しているが……どうだか。交際回数だけなら確かにかなり多いのだが、すぐに別れるんだ。理由は趣味が合わないから~とかだろうか。よくわからん。
「幹也幹也! 今日だよなー。俺のミュートラルとGWOが届くの」
「バイト代足りて良かったな。プレイ料金の方もちゃんと払えるのか?」
「おう! 月3000だろ? 追加の課金だって余裕だぜ」
「まじか、プレイ開始時の課金特典狙うのか?」
「いや、さすがにそこまでは足りなかった……特典アイテム貰うのに5万必要とか、社会人でもなけりゃ無理だろ」
そんな言葉を聞き、思わず笑みがこぼれる。
「なっ! まさか、おまえ……」
「おうとも。プレイ料金3000円と、課金97000円分。計10万円だから特典アイテム二つ貰える」
「……さすがVR廃人だな。バイトしてないのにどこにそんな金あるんだよ」
「DOCランキング上位層舐めんなよ。あんまし褒められたことじゃないけど、レアアイテムをオークションで売った」
「うわー、ちなみに何円になった?」
「前々回のイベントの上位報酬。銃一丁で20万になった。ミュートラルが俺用になってぐちぐちうっさい母さんに、新しいの買えーって8万わたしたから、残り12万。ソフトと課金で全部だ」
そんな会話をしながら校門を通って下駄箱を過ぎ、教室に入る。
明日香と別れて自分の席にむかうと、その途中でクラスメイトの姫宮静香と目が合った。
ん、なんだ? 姫宮は俺の視線に気づくと、さっと目を逸らしやがった。
……まあ陰口でも言われていたのだろう。俺、あんまり協調性とかないし……あ、泣きそう。
それにしても姫宮か。なんか美少女してて、一見すると可愛い感あるんだけど、目が怖いんだよな。
特別目が鋭いってわけじゃないんだが……なんであんなに怖いのだろうか?
つか姫なんて苗字すごいよな。名は体を表すをマジでやってるからなぁ。それに比べて俺の斉藤幹也なんて名前は凡庸性あるよな。苗字に名前、どっちも量産型で水陸宙とどれでも戦えるタイプ。
そんなことを考えながら、ぼんやり過ごしていると、なんと姫宮が俺の前席に歩いてきた。え、なんだ?まさか、声に出てたとか……うわ、やっぱり目が怖い。
姫宮は、空いていた椅子に腰掛けると、俺の机にぐっと体を乗り出してきた。
「斉藤くん。明日香くんから聞いたんだけど、斉藤くんもGWO買うの?」
買うの?って、なんでそんなことを一々聞いてくるんだろうか。まあ答えてやらないこともないけど……。
「買うけど……どして?」
「本当!? わ、私も買うんだよ! ねえ、一緒にやらない?」
なしてそんなテンションが上がるのか、興奮気味に捲し立ててくる姫宮。その理由は……多分、明日香が目当てなのだろう。
以前、姫宮と明日香は付き合っていた。いや、あれは付き合っていたと言えるのだろうか……その期間は明日香の交際期間過去最短記録であるわずか一日。付き合ったと聞いた次の日には振られたと明日香が言っていたのをよく覚えている。それなのに、この食いつきっぷり。また明日香のことを好きにでもなったのだろうか……抵当な女だな。
「んー、なんというかな。まず、俺は明日香とは一緒にはプレイしないぞ?」
「え?」
そんな俺の言葉に、姫宮は不思議そうな顔をした。そりゃそうだろう。かなり仲の良い俺と明日香が、同じゲームを同時に買って、一緒に遊ばないのだ。親友同士が楽しそうにゲームの話をしたりしていたのだから、当然、一緒に遊ぶのだろうと見当づけていたに違いない。
「明日香と遊びたきゃ直接言えばいい。あいつ、接近戦で戦うだろうから、「わたしぃ~魔法使うから~一緒にパーティー組まな~い?」とでも言えばきっと大丈夫だ」
俺は親切心を働かしてそう助言してやる。
決して姫宮の目が怖くて、その恐怖に屈したのではない。
「え、私は別にあ「おらー、席つけー。テスト始めっぞー!」
姫宮が何か言おうとしたが、先生の声に遮られる。
また後でなと俺が言うと、しぶしぶといった様子で姫宮が自分の席に戻っていった。ああ怖かった。
■■■
その後、テストを終えた俺はホームルーム終了と同時に全力の早歩きで学校の敷地を出て、走って帰宅。あんな怖い姫宮なんて無視無視。全力疾走。
こんな目立ってしまうような行為をするのは、本当は嫌なのだが。俺はなんとしても12時までに事前登録を、キャラクター登録をしなければならないのだ!
猶予はあと1時間20分。βテスト時の参加者からの情報により得た知識の一つ、『成長制度選択制』。これは、自分の成長の仕組みを三種の中から自由に選べるというものだ。
一つ目は『レベル制』。
敵を倒すとキャラクターレベルが上昇するタイプ。
能力値を上げられるボーナスポイント(BP)を成長制度三種の中で最も得ることができる成長制度で、装備品も自由に装備が可能。ただ、レベル上昇時に覚える『スキル』や『技』が一般的なものしか得ることができないというデメリットがある。つまり真正面から小細工無しで、能力値で押すタイプだな。
二つ目は『スキル制』。
数多くのスキルツリーから合計10種類のスキルツリーを選んで、それらを成長させるタイプ。
スキルツリーのレベルアップ毎にBPが貰えて、獲得BPの合計値は成長制度三種の中では最も少ないが、多彩なスキルを使い分けながら戦うことができるというトリッキーな成長制度となっている。メリットは手数が多いということだな。装備品が所持スキルにより若干制限されることと、総合能力値が低いことがデメリットとなっている。
んで、今回俺が選ぶ成長制度でもある『職業制』。
職業を選んでそれに応じたスキルや技を覚えるタイプ。
職業レベルのレベルアップ毎に、スキル制より多くレベル制より少ないという平均的なBPを得て、加えてその職業にあったスキルや技を得ることができるという成長制度。装備品に厳しい制限を受けることと、能力値にもスキル数にも特化できないという所がデメリットだな。バランスが良いということは、長所がないと言い換えることができるから、それが短所となってしまう。
職業制を選ぶ理由は、このバランスが良いからという点だ。
俺が本腰を入れて遊ぶゲームはDOCなので、こっちは遊びを重視する予定。つまり、ガチではないということだな。
ガチならレベル制にして、只管身体能力を強化し、魔法を仮の銃火器として扱いながら、走り回って撃つ!みたいな慣れた戦闘方法を取るだろうし。
まあ、遊びでやるとは言っても職業制はそんなに酷い物でもないらしい。
いずれ他の二種では手に入らない最高クラスの職業技が使えるようになるし、俺が急いで帰る理由でもある、レア職業も存在する。
このレア職業というのが、事前登録をした職業制プレイヤーに抽選で配られるのだ。その中でも特別強力なレア職業の当選確率は、かなりの低確率になるだろう。だが、たとえ1%でも確率があるのなら、俺は走って帰ってまで挑戦しようと思う。
俺が狙っているレア職業は『勇者』。
技、魔法ともに優れたスキルを得ることができる。
その抽選者数は僅か10名。ゲームの参加人数が、世界全土で3000万人以上を予想し、1000万本以上の予約を受けているGWOで、その1000万分の10が職業勇者を得る事ができるというわけだな。いや、当日に予約なしで買う奴もいるだろうからもっと厳しいか。
……何人が事前登録するかは知らないが、職業勇者が手に入る可能性が多分1%もない。全然ない。まあ、他のレア職業でもいいか。レア職業自体は相当数配られる予定なので、運が悪くなければ何らかのレア職業が手に入ることだろう。他の成長制度にもボーナスBPとかレアスキルツリーとかが配られるみたいだし。
でも、変な職業とかにはならないといいな。選択できる職業がランダムなんだよこれ。しかも後になって変えられないから、職業変えたきゃ別にソフトを買うしか方法がない。一口二万円の高級クジというわけだ。
勇者以外ならできれば遠距離職がいいけど、支援職じゃなければこの際なんでもいいや。最悪支援職になっても、自身を支援して自ら前線に立って戦うくらいの意気込みだし。あ、それって逆に強いんじゃね?無双できそうな予感。
そんなことを考えながら走っていると、家の近くまできていた。ラストスパートをかけて玄関を開ける。汗がやばい。先にシャワーかな。
「はあ、はあ、やっと着いた。ただいまぁー」
「お帰り、お兄ちゃん。って、なんでそんなに興奮してるの? 私? 私がいたから?」
「違えよ、なんだその理由。そもそも興奮してねえよ。疲れてんだよ。はぁ……っていうか美也、おまえ、学校は?」
「テスト。一限だけだから急いで帰ってきたんだ。今日はね、新しいゲームが届くの♪」
「んー、んん? ゲームが……届く? おまえ、それってまさか、GWOだったりする?」
そう聞くと、美也はまんべんの笑みで答えた。
「あったりまえじゃん! お兄ちゃんと遊ぶためにわざわざお年玉まで使って買ったんだから!」
「え……聞いてないんだけど」
「言ってないもん。言ったら予約消されちゃうでしょ?」
まあ消すだろうな。妹と一緒に仲良くゲームなんて嫌だし……でも、お年玉まで使っちゃったかー。そこまでされると、なんか言いづらいな。
「んー……美也、落ち着いて聞けよ。まず、俺はDOCでどんなプレイをしてランキング上位に入った?」
「え、DOC? お兄ちゃんの戦い方って、たしか……暴れる?」
「あ、暴れるって……あれは別に暴れているわけではないんだけどなぁ」
さて、高校生の俺なんかが、ニート廃人がわんさかいるようなコアなジャンルであるFPSでどのようにして世界ランキングに入ったか。それは、ゲームモード『デスマッチ』での成績による評価だ。
デスマッチ。個人戦。
チームデスマッチとは違い対戦プレイヤー24名がそれぞれ敵同士。
チーム戦とは違って立ち回り方が相当上手くない限り、安定した成績をだすことは不可能である。その個人戦での俺の高成績っぷりが評価されて、去年の総合ランキング28位、国内ランキング3位に選ばれたんだ。
その戦闘方法はいたってシンプル。基本的には走って撃つの繰り返し。走って見つけて撃って走る。ただひたすらそれを繰り返すというまるで初心者みたいな戦法を俺は取っている。実際、それで成績が出せているのだからまあいっかというのが結論だ。
俺は生まれつき頭の回転が速いらしいから、それをフルに活用していた。マップに敵が映ってからどう行動するか……を予想するのが、他人より上手いと自負している。さすがに23人もの行動を常に予想し続けるなんて離れ業はできないけど、10人くらいなら詳細にまで動きを予想できるまで成長した。
それで、個人戦のデスマッチばかりやっていた俺としては、仲間の行動なんて曖昧な物は上手く予測できないんだ。というか予測し慣れていない。
頑張ればできるかもしれないが……現状、信用できるのは俺の行動と、どう俺を倒すか考える敵の行動くらいだ。つまりは孤高のソロプレイヤー、ぼっちプレイヤーってわけだな。ひとりぼっち。うん……。
「俺、GWOはソロでやるから、美也とはパーティー組まないぞ?」
「ええ!? じゃ、じゃあさ、一緒に戦ってくれなくてもいいから、せめてパーティーだけは組んでよ!」
「ああ? それじゃおまえのパーティーが五人編成になっちまうじゃねえか」
「いいの! ほら、パーティーだと、チャットとかできるし!」
どうしてこいつは16にもなってこんなに兄と遊びたがるのだろうか……。
確かに小さい頃はお兄ちゃん子だったが、今ではちゃんと彼氏だっているらしいし、とっくに兄離れは済んだと思っていたんだが……と、そんなことより。
「わかったわかった。それで美也、GWOは?」
「ん、リビングのテーブル。ミュートラルも用意しといたよ」
その後、5分でシャワーを浴びて部屋着に着替えた俺は、速攻でリビングへ行く。あと1時間。間に合うか?
テーブルの上には、機械の塊が置いてあった。あれ、三つ?
「なあ美也、このピンクと銀のミュートラルどうしたんだよ?」
「私のだよ! お母さんが買ってくれたんだ。こっちの銀色のがお母さんので、はい、お兄ちゃんの」
そういいながら俺の(元母親の)赤色のミュートラルを手渡してくる。ってか母さんも新しいの買ったのか。八万円わたしてから、まだ二日しか経ってないのに……どんだけ欲しかったんだか。
そもそも、家族全員が個人的にミュートラル持ってる家なんて聞いた事ねえぞ。うちにあるゲーム、全部売れば100万単位になるんじゃね? 絶対売らないと思うけど。
パッケージの包装紙を破いてパカっと開くと、中には小さなチップが一枚入っていて、『GodWarOnline』と黄金色で書かれていた。これをミュートラルにぶっさして、約30分間でインストール。その後、初めてゲームが可能となる。
「美也もこれからやるのか?」
「うん、プレイヤーネーム教えて! ログインしたら声かける!」
「じゃあ……幹也でいいや。ローマ字表記な」
「本名!? 私はええっと、美也、みや、みや。よし、ミャアにするから!」
ミャア……シ×アみたいだな。
つか、え、やっぱ本名は不味いかな。DOCの方ではMikiyaにしてるけど、普通は本名にしないか。
「じゃあ俺もまねしてミキャアにしようかな」
「え、お揃い!? やった、ミキャアね。絶対ね!」
謎の感情表現でくるくると回りだした妹を置いて、部屋に戻る。さて、ミュートラルの腕輪の部分を両手首にはめて、首輪をしてから、専用のヘッドセットを被ってっと。
ソフトのインストール完了まであとちょっと。
…………よし、インストール完了。事前登録期間終了まで、残り時間20分。
「ゲーム開始っと」
そう呟きながら、GWOと輝くアイコンに視線を移し固定する。
数瞬後、ピコンっと可愛い音と同時に視界が暗転して…………ゲームが始まった。
これから十数年間にも及ぶ長い長い冒険が。
美也「お兄ちゃんとお揃い! これは……とうとう私にデレたのかもしれない」




