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第五話 神授の剣 その一

 俺は試練の迷宮の地下二階で巨大蟻や大芋虫と戦い無事に迷宮の黒猫亭に帰ってきた。黒猫亭は昼過ぎに起きた冒険者達で混雑している。メイドさん達もてんてこ舞いだ。

 仕方が無いので冒険者の皆さんを観察してみる。

 ほとんど日本人のようだ。神様は外国語が苦手なのか? 年齢は十五歳前後が多い。男女比は四対三ぐらいか。嫌な事に気がついたので後でクローネさんに訊いてみよう。

 ここの冒険者は武器はメインの武器が軽戦棍で、予備が短剣か片手斧いう組み合わせの方が多い。刃物は維持費が高いが、スライムのように打撃系武器が効きにくいモンスターがいるのだろう。


「すいません。ちょっとボッタルクさんとこで買い物してきます。すぐに戻りますので」


「はい。イズモさ……ん」


 俺はチナツと分かれてボッタルク商店に顔を出す。店内には数人の客がいろいろと武器や鎧を物色している。


「剣の手入れ道具とロープはお幾らですか? 後、予備の武器は何がいいでしょう?」


「メインで剣をお使いの方には軽戦鎚がよろしいかと」


 ボッタルクさんが壁に掛けてある軽戦鎚、片手用ウォー・ハンマーを見せてくれた。柄の長さがニフィート前後、六十センチぐらいで柄頭が金槌と鶴橋になったタイプである。


「ですが、予備の武器は地下三回に降りるまでは必要ないと思いますよ」


「そうですか。じゃ、剣の手入れ道具とロープを十メートルを二つをお願いします」


「あわせて大銀貨一枚です」


 俺にはまだボッタルク氏の言うお値段が高いのか安いのかは判断しづらい。

 だが日本国内の買い物ではないし、最初の言い値は吹っかけてる場合が多いはずだ。


「高くないですか?」


「もちろん高いですよ。刀剣用の油はそこいらの食用油とは違います。布もあなた方の居た世界と違って貴重品ですから」


 なるほど。特に布は大量生産される工業製品ではなくて手織物だろうし、高価になるのは仕方が無いのか。ここでごり押しするのは止めておこう。チナツさんにすぐ戻ると言ったし。


「言われてみればその通りですね」


「御理解が早くて助かります」


 ボッタルク氏が布袋に入った手入れ用品とロープをカウンターに置く。

 俺がコイントレイに大銀貨一枚を置いてから商品を確認する。布袋の中には雑巾らしき布と竹製の容器が一つある。竹製容器を取り出して蓋を開けてみると油らしき液体が入っている。


「椿油でしたか」


 俺も刀剣の扱いについてはあまり詳しい方ではないが、日本刀のメンテ用油が椿油だったとどこかで聞いたことがある。


「はい」


「刀身洗って蟻とかの体液を落としから、乾かしてからこの油を塗ればいいんですね?」


「それで問題ないと思いますが、たまには砥いでやって下さい。神様からいただいた剣であれば一般的な剣よりも丈夫でしょうが」


「砥いでもらうといくらぐらいかかるんですか?」


「当店でお買い上げいただいた剣は大銀貨一枚でサービスさせていただいておりますが、その剣に関してはやってみないと解りません」


 ボッタルク氏が困惑を隠さずに正直に答える。


「規格外品はこーゆー時に困りますね」


 この剣は世の一般的なモノではない。うかつな事は言えないだろう。最悪の場合はこの世の砥石では砥げない可能性もある。


「ご理解いただきありがとうございます」


「素人の俺でも普通の剣と同じ金でこれを砥げと言うのは無茶だと思いますから」


「今後ともよろしくお願いします」


「はい。残念なのは長くて一年ということでしょうか」


「それはまことに残念ではございますが、仕方の無いことでございます」


 実際もう少し訓練期間が長くてもいいとは思うんだよな。訓練期間と生存率は正比例するはずだし。


「それでは失礼します」


「またのご来店をお待ちしております」


 ボッタルク氏の機嫌のよさそうな声からしてもう少し値段交渉するべきだったのかもしれない。

 俺が思うにボッタルク氏の仕事は冒険者見習いに異世界の物の値段の相場と売り買いの駆け引きを教えるだろう。よってそれほどぼったくる事は無いだろう、多分。最初の一回は後学のためにぼったくるかもしれないが。

 などとぼんやり考えながら、俺は迷宮の黒猫亭に戻る。

 食事が終わった冒険者が再び迷宮に向かったので、迷宮の黒猫亭の店内はちらほらと空席ができてきた。


「お待たせしました」


「いえいえ。そんなに待ってませんから」


 俺はチナツさんと同じテーブルに座るとヒトのメイドさんが注文を取りに来る。


「ご注文は何になさいますか?」


「コーヒーはありますか?」


「ございます」


「とりあえずコーヒーを二つ」


「剣を洗う水がご入用だと思いますが桶に一杯でよろしいですか?」


「はい」


「ご存知だとは思いますが、店内で剣を抜かないで下さいね」


「解ってます」


「少々お待ち下さい」


 メイドさんがキッチンの方に戻る。


「一休みしてからまたもぐりますか?」


「はい。二階に慣れておきたいですから」


 俺としては巨大蟻との戦闘に慣れておきたい。小遣い稼ぎにもなるし。チナツさんの口調が変わってる件に関しては察しろというしかない。


「お邪魔でなければ一緒に行きたいです」


「邪魔なわけないでしょう。ところで聞きたいことがあるんですが?」


「何でしょうか?」


「人型の敵と戦うときのコツが知りたいです」


 これはマジで知りたい。生命と生活がかかってるからな。


「私は手を狙ってます。相手の攻撃手段を封じれば後が楽ですから」


「なるほど」


 手を潰されれば武器がもてないし殴る事も出来ない。素手の喧嘩ならば蹴りもありかもしれないが、武器を持つ敵に足を出すのは殴ってくれと言うようなもんだろう。

 つまり敵の攻撃手段を攻撃して、攻撃と防御を同時に行う。

 チナツさんが考えた戦い方ではないだろう。彼女がどのようにして知ったのか興味が無いといえば嘘になる。彼女にしてみれば訊かれて愉快な経験ではないかもしれないので訊くような事は今はしないがな。


「イズモさんなら剣を信じて力押ししてみたら?」


「それも方法かなあ。腕が上がったと思ったら試してみます」


 さすがに転移した初日に武器の威力を信じてオークに返り討ちにされるのは間抜け過ぎるだろう。ん? この剣は本来の転移先に持っていけるのだろうか?


「どうかしましたか?」


「神様にもらった剣は本来の転移先に持っていけるのかな?」


「多分大丈夫だと思います」


 メイドさんがコーヒーを持ってくる。


「神様からいただいたアイテムを持っていけなかった事例は全く無いわけではないですが、ほとんどの事例が自業自得ですね」


「自業自得って?」


「神授の武器で他者を脅したり、神様がこいつに持たせておくべきではないと感じた時には没収されます。神授の武器を所有者以外が無断で使うと呪われるそうですから、ここでは他人に奪われる心配はありません」


 クローネさんは「ここでは」と言ってるから転移先ではそーゆー便利な機能は使えないんだろうな。すると転移先で神授の剣を奪われた時の事も想定しておく必要があるのか。

 金がいくらあっても足りないのは異世界に行って同じかよ、はあ……。

 お疲れ様でした。

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