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たしなめる
子供の時分の遊び場は、大抵近所の神社の境内だった。
その神社の狛犬は、阿形の側の顔が少し欠けていて、俺は日頃からそれを虚仮にしていた。たまに蹴飛ばしてすらいた。
その日はたまたま友人たちの都合が重なって、境内には俺一人だけだった。
いつも通りにやって来てみはしたものの、やはり一人遊びはつまらない。
そのつまらない気持ちの八つ当たりで、欠けている方の狛犬の台座を蹴っ飛ばした。途端、ふくらはぎに鋭い痛みが走った。
慌ててズボンの裾を捲ると、そこには薄く、しかし確かに痕がついている。赤く残るそれは、まるで犬の歯型のようだった。
思わず狛犬を見上げると、その目がぎらりとこちらを睨めつけた。あまり調子に乗るなよとたしなめられた。そんな気がした。
だってもし本気で怒っていたのなら、あの大きな口と太い牙だ。子供の足を噛み千切るなど容易い仕業だったに違いない。
見栄坊なので以後も境内へは遊びに行った。
でもしばらくは、狛犬の側は避けて歩いた。




