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  作者: 鵜狩三善
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架け橋小唄

「らっつたのー、ほんざがさー、くくのちひいの、ふう。ほい!」


 などと口ずさむのは俺ではない。

 うちの台所の天井裏には昔からヘンなのが居て、下で人が何かかき回すと必ずこの歌を歌うのだ。

 鍋だろうが味噌汁だろうが納豆だろうがインスタントコーヒーだろうが見境なしだ。どこかにいるそいつは、二十四時間いつだって、回転の動作に合わせて歌い始める。

 ちなみに洗濯機には反応しない。多分回転時は蓋が閉まっていて、中が見えないからだろう。

 とまれ歌う以外は何をするでもないし、益も害もない存在……と、思っていたのだが。

 こいつの所為で、ある時大変なことになった。



 その日の昼、俺はオフィスでコンビニ弁当を食っていた。

 たまたま皆出払っていて、仕事場には俺ひとり。そんな気の緩みからだろう。一緒に買ったカップスープをかき回しながら、つい、


「らっつたのー、ほんざがさー、くくのちひいの、ふう」


 と美声で小唄を披露した。

 でもって、「ほい!」と顔を上げたら、そこには同僚の宮里さんがいた。もう誤魔化しようもなく、ばっちりと目が合った。

 ぐえ、と思わず声が出る。

 なんてタイミングで戻ってくるのだ。いい大人が熱唱状態を目撃されるとか、気恥ずかしさで死ねる案件だぞ。顔がわーっと熱くなって、こりゃあ耳まで赤いの間違いなしだ。

 だが醜態を目の当たりにしつつ、彼女は引きも笑いもしなかった。

 どころかちょこちょこ駆け寄ってきて、ぐっと胸の前で両こぶしを握る勢い込みのポーズで顔を寄せ、


「うちにもね、おんなじのがいるの!」


 偶然って凄いなあ。あいつらの歌にも流行り廃りってあんのかなあ。そんな益体もない思考のバリアで、俺は近すぎる笑顔から意識を逸らす。

 あわよくばこの赤面は、歌を聞かれたがためと勘違いしていただきたい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 祝! 900話! 完成目前…和式アラビアンナイト…っ! [一言] 『蔑される』 これはムカつくw からかって行くんじゃねぇw 輪入道ならぬ輪ギャルさんかぁ…妖怪の世界も世代間で価値観が…
[良い点] 電子レンジはどうなのだろう……? [一言] なんと、鵜狩さんらしからぬていていなお話で。 コミカライズ希望したくなりますな。 あと、900部おめでとうございます!
[良い点] 赤面してる理由にうっかりにっこりしちゃうけど、それってやっぱものすごく怖い話じゃないですかぁ! 怪異もお互いコミュニケーションとってるってこと? ひぇ……
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