鱗の湯
奇態な夢を見た。
内容は覚えていない。だが目覚めてなおひどく嫌な感触を残留させる、飛び切りの悪夢だったことだけは確かだ。
全身は脂汗に塗れ、布団はそれを吸い込んで、病熱の床のように気色悪く濡れそぼっている。
体を起こそうとした途端、がんがんと頭が痛んだ。筋骨が万力にかけられて変形するような痛みだった。その作用か、手足の先までもが凍えそうに寒い。
「そのまま寝ているがいい」
枕頭で誰かが言う。
けれど痛みよりも言葉よりも、不思議と「このままではいけない」という気持ちが勝った。
服を脱ぎ散らかすと這いずるようにして風呂場へ行き、どうにか湯船に座り込む。そのまま熱い湯を溜めて、たっぷりの長風呂をした。
やがて体が温まり、激痛が薄らいでいく。
人心地がついてほっと息を吐いたところで、湯に奇妙なものが浮くのに気づいた。
手ですくえばじゃらじゃらと溢れるほどに大量な、それは透明な魚鱗である。
どこから湧き出たのかと不気味に感じ、そして同時に、もうひとつの奇怪に思い至った。
この家に住まうは己一人のみである。
最前枕元で声をかけてきたのは、一体何者であっただろうか。
もし声の通り寝ていたのなら、さてどうなっていたのだろうか。




