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  作者: 鵜狩三善
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蔑される

 大型トラックのタイヤくらい大きな車輪。外縁(がいえん)はめらめらと青白く炎を発し、その中心には生首があって、眼光炯々(けいけい)と私を()めつけている。

 子供の頃、アニメで見た覚えがある。

 確か、輪入道とかいう妖怪だったはずだ。

 しかし今、ごろごろと夜の向こうから寄り(きた)る、その中央に鎮座するのは若い女の首である。派手派手しい、赤に近い茶髪だった。「入道」と名にし負うなら、そこは坊主頭のおじさんであるべきではないのだろうか。


 化け物に出くわした瞬間の思考はと言えば、大体この程度のものだった。並外れた異常を咀嚼するのに、どうしたって人は時を要する。

 だからふた呼吸して状況に理解が及んだ途端、私は悲鳴を上げて駆け出していた。回れ右して全力で、駅前へ、人と光のある方角へ。

 でもいくら必死に走っても、ほんの数分先にあるはずの光景は少しも見えてこなかった。誰ひとりいない、どことも知れない薄暗い路地が、延々と視界の果てまで続くばかりだ。

 足をもつれさせながら逃げる私を、輪少女はキャハキャハと追って来る。

 耳障りに化け物が上げるのは、嘲弄を含んだ笑いだった。その気になればすぐにも追いつけるのに、敢えてそうしないのだ。

 嬲られる悔しさに歯噛みしたけれど、だからといってどうなるものでもない。

 半ば観念しつつも、それでも走って走って必死に走って、ついにどうにも動けなくなって私は冷たい路面に倒れ込んだ。

 ああ、もう駄目だと目を閉じた横に、車輪の気配が停止する。


「足、おっそ」


 そう吐き捨てると、化け物はキャハキャハと転げ、夜の彼方へと消えていった。

 九死に一生を得たはずなのに、胸に生じたのは安堵ではなく、凄まじい苛立ちだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今でいうところの「メスガキ」キャラなのではないか、と。 で、作者の何某さまはそういうキャラに「ザーコザーコ」と罵られることに興味が出てきてしまったのかと、と。 そんな風に邪推してしまうとこ…
[良い点] クッソーーーーー!! 助かったのに!助かったのに!!!(単純) それはそれとして、久々の更新嬉しいです! ありがとうございます!
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