幕を引く
俺の通う中学校には、如何にも田舎らしく古ぼけた体育館がある。
でもってそこには更に、やっぱり田舎らしい怪談もある。
人呼んで幕引きさん。
誰もいないのに体育館の窓の遮光カーテンが、しゃっと音を立てて一斉に閉まることがある。それをしているのが幕引きさんなのだそうだ。
体育館を使う部活の連中は、年に数度、この現象に出くわすらしい。
だけどここの卒業生である親父に聞いたら、「そんなもんは知らん」という回答だった。どうもここ十年くらいでできた怪談らしい。
と、ここまでが前置き。
先日、この体育館で事件があった。
うちに赴任してきた新しい校長が、着任の挨拶を行おうとした。
ちょっと気難しげなその人が、壇上のマイクに向かったその途端だった。しゃっと音がして一斉にカーテンが閉まり、体育館の中が真っ暗になった。
もちろん、館内には照明が点いていた。けれどその全部が、まるで停電のように揃って落ちたのだ。
だけど暗闇の時間は、ほんの一、二秒だった。
パニックが起きる前にまた明かりは灯り、それから誰かがあっと声を上げた。
壇上から、校長の姿は消えせていた。その後も、どこにも見つからなかった。
しばらくして、新校長は十年ほど前、うちで生活指導をしていたのだという噂を聞いた。
聞いたけれども、それが幕引きさんとどう関わるのかは、結局わからないままである。