858/1000
鼓送り
今のご時世で、「狸は人を化かす」などと語れば、ただ失笑を買うばかりだろう。
だが俺は、あいつらがそんな力を持っていることを信じてやまない。
たとえば、庄野の爺様だ。
この爺さんはちょっと姿勢と歩き方を変えるだけで、まるで別人にしか見えなくなる変装術の達人だった。若い時分、狸に恩を施して化けの皮を譲られたのだと言う向きまである。
噂の真偽はここではおく。が、爺さんの通夜で不思議があったのだけは本当だ。
夜も更けた頃、どこからともなく鼓の音が起きたのである。
ぽんぽんと、最初はひとつで鳴り始めたそれは、やがて幾十もの合奏となって響き渡った。
陽気な中にどこか悲哀の漂う調子は、追悼の楽曲としか思えないものだった。
鼓の音は野辺送りの折にも起こり、三回忌までは必ず聞こえた。
七回忌より後は鳴らなかったとは、先日の里帰りで耳にしたことである。