事前のお詫び
洗濯物を取り込んでいたら、かたん、と郵便受けが鳴る音がした。
明日からは旅行だし、忘れないうちに受け取っておこうと玄関へ足を運ぶ。何が届いたのだろうとポストを開けると、入っていたのはA4サイズの茶封筒だった。
一体何が納まっているのか、随分と分厚く膨らんでいる。
夫の仕事関係かと思ったのだけれど、差出人の名は見当たらない。気づけばその上、明後日の消印が押されている。
正規の郵便ではなく、どうにも悪戯めいた郵便物だ。
少し考えてから、開封してみようと心を決めた。
変なものが入っていても大丈夫なようにペーパーナイフで慎重に切り開いていく。すると中から出てきたのは、肉筆の詫び状だった。
『僕が旅行に誘いさえしなければ、妻はあんなことにはなりませんでした。申し訳ありません。本当に申し訳ありません』
それだけが幾行も幾行も――封入された何十枚もの便箋の全てに、震える文字で書き連ねられている。
乱れた筆跡だったけれど、わかった。これは間違いなく夫の手だ。
すぐさまに夫と旅行代理店に電話をした。
直前のキャンセル料は痛かったけれど、それはへそくりで補填すればいいことだ。肝心なのは、あの人にこんな手紙を書かせないこと。それに尽きる。
手配りを終えてからふと見ると、置いておいたはずの封書は跡形もなく消えていた。
きっと、これでよかったのだ。
ひとつ頷いて、今夜は夫の好物にしようと決めた。
以上はにける❤️にけら様よりの原案
「郵便受けに届いていたのは、明後日の消印が押された差出人不明の封書だった」
を元に創作したものです。