測りかねる
いくら引き出しを漁っても、定規だけが見当たらない。
間違いなくここへしまったはずなのに、明日算数で使うのに、どこにもないのだ。
お母さんに言えば、「すぐ物をなくすんだから!」と叱られるのは目に見えていたから、僕は学校の机の中に納まっているのを期待することにした。
でも残念ながら、登校していの一番に捜索しても、やっぱり定規は見当たらなかった。
午後の授業までにどうにかしなくちゃと考え込んでいたせいだろう。
午前中は散々だった。
さして親しくもない遠野くんに、まるで幼馴染みたいに話しかけてしまったり。
逆に近藤さんにひどく素っ気ない応対をしてしまったり。
体育の時なんて、何度相手のチームにパスを出してしまったことか。
なんだか僕の感じる人との距離と、実際に横たわる心の距離がブレブレになってる感じだった。
定規は隣のクラスの友人に借りに行こうと思っていたのだけれど、こうなるとそれもできない。
僕が友達だと思っている彼は、実は全然付き合いのない子かもしれないのだ。
どうしたものかと困り果て、昼休みは図書室に逃げて、誰とも話さないで過ごした。
そうしてチャイムと一緒に教室に戻り、諦めて算数の教科書を出そうとしたら、かたんと机の中で音がする。
覗いてみれば、そこにはずっと探していた定規があった。
驚きつつも引っ張り出すと、定規にはセロハンテープで、『取り返しておきました』とのメモが貼りつけられている。
近藤さんの字だった。
ちらりと後ろを振り向くと、気づいた彼女は少し首を傾げるようにして、にこーっと笑う。
慌てて前を向き直した。
とてもやわらかなその笑顔の所為で。
僕はいつだって、彼女との距離を測りかねてしまうのだ。
以上は青 燐道様よりの原案
「いくら引き出しを漁っても、定規だけが見当たらない」
を元に創作したものです。




