人獣
羽州で聞いた話だ。
加助という猟師が山に入ったところ、珍妙な獣に出会った。
総体は猿に似る。だが、明らかに違う生き物であった。
全身は長く濃い毛皮に包まれ、ひょこひょこと二本の足で歩行している。たが首から上に毛は一本もなく、剃ったようにつるつるの肌が露出していた。
顔だちも猿よりも人めく獣のありさまは、不気味よりも滑稽や無様といった感情を掻き立てる。鉄砲を持つ安心感もあったろう。加助はつい失笑した。
すると獣は首を巡らし、ぎょろり彼を睨めてから、
「己が身を見よ」
哀れむように言って、茂みの中へ姿を消した。
獣が人語を発したことに仰天し、加助は転げるように山を下りた。
村に戻り古老に顛末を伝えたが、そのような獣を知る者は誰もなかった。
加助は、「鳴き声がたまたまそんな具合に聞こえたのだろう」と茶にしたが、妙に毛深い腕を心細げに撫でるさまを、幾人もが見ている。
そうしてその夜のうちに、加助は村から姿を消した。
住まいの周囲には彼の衣服と多量の獣毛とが散らばっており、まず山へ入ったのだろうとのことである。




