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不安花
通学路沿い作られたそこには四季折々の花が育ち、道行く人の目を楽しませるのだ。
だけど私はその花たちが嫌いだった。
怖かった、と言う方がより正確だろう。
夕暮れを過ぎて通りがかると、植えられた草花が無数の人の手のように見えるからだ。風もないのにゆらり、ゆうらりと揺らめいて、私を招くように思えるからだ。
我ながら、なんとも臆病な話である。
けれど一度生まれた不安の感触は、泥汚れめいて心にこびりつき落ちなかった。
だから近隣住民からの要望でそれが撤去されると聞いた時、私はひどく安堵した。
工事は驚くほど迅速に行われ、花壇は痕跡すらなく、のっぺりと平坦にコンクリートで塗り固められた。
でもそれから数か月して夏になると、舗装の小さな隙間から、雑草たちが芽吹き始める。
ないはずの風にざわざわとなびく背丈の低い緑は、どうしてか赤ん坊の指のように見えて仕方ないのだった。