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蛇足
播州の侍の屋敷に怪異が起きた。
一晩のうちに床といわず壁といわず家中を、足跡が埋め尽くしたのだという。
家人の誰も気づかぬうちに残されたこの足跡は、より面妖なことに極彩色であった。或いは赤く、或いは青く、足裏にたっぷりと染料を塗りたくってのし歩いたが如きありさまなのだ。
大きさからして、足の主は赤子としか思えぬのも実に奇妙なことだった。
侍は前日、屋敷の門前でとぐろを巻く蛇を斬って捨てたものらしい。出来事はこの因果だとする向きもあったが、蛇は勿論足を持たぬから理屈が合わない。
何者の仕業か知れぬまま、足跡は夕暮れの頃には全て消え失せていたそうである。