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  作者: 鵜狩三善
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神焼き芋

 風邪を引いて、丸一日寝込んだ。

 ひとり暮らしの大学生の悲しさで、そうするともう冷蔵庫に食材がない。コミュニケーション能力の低い俺には、こういう時に頼れる友人も恋人もない。

 仕方なく、気だるい体を引きずって外に出た。

 さんさんと降る午後の日差しを浴びてなお寒いのは、きっとまだ熱があるからだろう。思いながら、神社を抜ける。参拝のつもりもないのに境内を横切るのは罰当たりかもしれないが、これがスーパーへの近道かつ抜け道なのだ。非常時なのでお目こぼし願いたい。

 気力を振り絞ってあれこれと買い込み、その帰り道でのことだ。

 先の神社を再び通り抜けようとすると、鼻先に煙が匂った。つられてそちらに目をやると、常衣(じょうえ)姿の爺ちゃんが一斗缶で焚き火をしている。

 ……今、こういう焚き火ってありなんだっけか。

 疑問が浮かんだのと、爺ちゃんがこっちを向くのとはほとんど同時だった。いきなり目を背けるわけにもいかず会釈をすると、


「具合悪そうだな、兄さん」


 爺ちゃんは距離感のない感じでにかっと笑うと火箸を使い、一斗缶の中からさつま芋を取り出した。どうやら焼いていたものらしい。


「熱いうちに食いな。元気が出るからよ」


 半分に割って火が通っているのを確かめてから、爺ちゃんは芋を新聞紙で(くる)んで手渡してくれた。

 対応に困ったので、ごにょごにょと口の中でお礼を言って逃げるようにその場を去った。


 家についてから齧った焼き芋は驚くほど甘くて、ひと口ふた口のつもりが、つい全部平らげてしまった。

 現金なもので、腹が満ちれば眠くなる。布団に潜り込んでうとうととしたら、次の目覚めは驚くほど快適だった。どうやら風邪が吹き飛んでしまったらしい。

 あの芋のお陰ってことはないだろうけど、今度会ったらあの爺ちゃんには、お礼を言っておくべきだろう。挨拶の文句を考えつつ、放置してしまった芋の皮と包み紙を片付けようと手を伸ばす。

 と、そこで新聞の発行日が目に留まった。

 今日の朝刊のように真新しい紙面に記されていたのは、とうの昔に過ぎ去った、昭和時代の日付だった。

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