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  作者: 鵜狩三善


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80/1000

差し入れる

 夏場の蚊。

 あいつらは一体どこから部屋に潜り込んでくるのだろうか。

 どこもかしこもきちんと隙なく戸締りしているというのに、いつの間にやら不法侵入を遂げて深夜、耳元を大音量で飛行して、俺の安眠を妨げる。

「眠い時に蚊が顔の周りを飛び回るのが本気でムカつく」と書いていたのは、確か清少納言であったか。まったく同意見だ。


 そんな寝苦しい晩、ふと夜中に目を覚ました。

 蚊の所為じゃない。何か妙な気配を感じたのだ。

 睡眠の姿勢で薄目だけ開けて様子を伺うと、豆電球の明かりの下に見えた。


 手だ。

 白くて細い女の手が、窓から部屋の中に入ってきている。

 泥棒だと声を上げなかったのは、ひとえにその手が雨戸も窓ガラスもすり抜けていたからに他ならない。

 ふたつの手のひらは大事そうに、中に何かをくるんだ形で重ねられている。肘の辺りまで室内への侵入を果たしてから、そのくるみを開いた。

 途端、あの羽音がした。蚊だ。

 怖さも吹き飛んでこの野郎と跳ね起きたら、手は即座に外に消えて失せた。くすくすと笑う声までしたようだった。

 明日は殺虫剤を、スプレー式の強烈なのを買って来ようと心に決めた。

 もしまたあの手が()()ってきたなら、即座に引っ叩いて吹きかけてやろうと思う。

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