足りなくなる
「僕はね、本当は警察の人間なんだ」
夕餉の肉を獲りに行こうと思っていたら、男が突然そう告げた。
「この街はあまりに人が消えすぎる。その行方不明者の、ほんの一部だけが見つかる事もね。地域ぐるみの犯罪が疑われて、それで土地に潜り込んだのが僕だ。そうして行き着いたのが君だ」
私は頭が足りない。
なので、彼が何を言いたいのかよくわからない。
けれど私は、これまで共に狩りをしてきた彼を、身も心も許していた彼を、夫であると信じていた。
だから突然にそうではないように言われて、ひどく驚いて不安になった。不安になって、混乱をした。
「本当はもっと早くに決断をして、君を捕まえるべきだった。でもできなかった。僕は……」
私の頭が足りないけれど、唐突に理解が及んだ。
これから告げられるのは別れだ。私たちを引き裂く別れの言葉だ。
ならば、この先を喋らせてはならないと思った。
それで、いつものように。
命を乞うて喚き叫ぶ人間にするように。
反射的にその首をへし折って、肉に変えてしまった。
ぶらぶらになった男の首を握ったまま、私は呆けて長く立ち尽くし──やがて空腹を思い出して、泣きながら彼の肉を食んだ。
やっぱり私の頭は足りなくて、いくら考えてもわからない。
彼は一体、何をしようとしたのだろう。
どうして最後に微笑んだのだろう。
どうして私の夫のままでいてくれなかったのだろう。
どうしてこの胸はぽっかり欠けて、張り裂けそうに痛むのだろう。
誰の心も推し量れぬ知恵のなさを、私は初めて悲しく思った。
以上は砂たこ様よりの原案
「身も心も許していた相棒は、警察の潜入捜査官だった。」
を元に創作したものです。




