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  作者: 鵜狩三善


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やりすぎる

 祖父は悪戯を好む(たち)だった。

 こう言えば愉快な人との印象を抱くかもしれない。けれど彼の振る舞いは、いつもいつも度を越していた。

 よく標的になったのが幼い私であったから、なおたまらない。

 祖父に驚かされて私が泣き出し、駆けつけた母に咎められて祖父が小さくなる。そんな光景が日常だった。

 一時は幼心に、自分は祖父に嫌われているのではないだろうかと本当に悩んだものだ。

 私が長ずるに連れて、そんな悪癖も鳴りを潜めた。けれどそれは、祖父の体の弱りを意味するものでもあだった。

 ある時祖父はふっと倒れて、それきり意識は戻らなかった。


 

 通夜の折、私は親類一同の座を離れてひとり祖父を見舞った。

 笑顔の印象ばかりが強い人だった。でも棺の小窓から見る死に顔はひどく真面目くさっていて、まるで知らない人のようだった。

「おじいちゃん」と小さく口の中で呟いたその時、不意にその顔がぶくぶくと膨れ上がった。風船のように張った肉と皮が、正体不明の化物めいてガラスいっぱいに張り付く。

 はちきれそうな棺桶の蓋ががたがたと鳴って、閉じ込められた中身が今にも溢れ出しそうだった。


 声もなく私は逃げた。

 逃げてから、すぐにはっとなって取って返した。すると、思った通りだった。

 棺は何事もなかった顔で、ひっそり静かに横たわっている。ただ祖父の口元だけが、詫びるように笑んでいた。

 最後まで驚かされっぱなしだ、と思った。

 悔しくて悔しくて、なんだか涙が出た。

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