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奇憂
友人がおかしな事を言い出した。
最近、なんだか空が近いように感じるのだという。
そんな詩的な事を言われても困ってしまう。曖昧に笑って誤魔化すと、「そうよね、そんなわけないわよね」と向こうも微笑んで有耶無耶にした。
それから数日。
「やっぱりね、空が近いの。きっと落ちてきているのよ」
またしても同じ友人が、同じ事を言い出した。
「もう頭のすぐ上にあるの。このままじゃ押し潰されてしまうわ」
だが今度の瞳は真剣で、追い詰められていた。先日のように笑いで誤魔化せば、それを引き金に激発してしまいそうだった。
後でいいカウンセリングを探してみようと心に決めつつ、
「そんなすぐ近くにあって触れそうなら、押し返しちゃえばいいんじゃないですか? こう、『えいや』って」
苦し紛れもいいところの言い草だったけれど、彼女には福音に聞こえたようだった。
できるかしら、と独り言のように呟くと空に向かって万歳のように手を差し上げ、
「あ、やっぱり無」
ぐしゃり。
言いかけて、平たく潰れた。